研究課題/領域番号 |
19H04120
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研究機関 | 会津大学 |
研究代表者 |
高橋 成雄 会津大学, コンピュータ理工学部, 教授 (40292619)
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研究分担者 |
有川 正俊 秋田大学, 理工学研究科, 教授 (30202758)
三末 和男 筑波大学, システム情報系, 教授 (50375424)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 情報可視化 / 地図総描技法 / メンタルマップ / 制約付き最適化 / 奥行き手がかり |
研究実績の概要 |
本研究は,5年間の研究計画において,どのような詳細度やユーザの分析意図の違いにも対応できる,情報可視化のための視覚要素配置問題を解くための計算アルゴリズムを,地図学において長い間にわたって培われてきた地図総描技法を導入することで,定式化を図ることを目的としている. 本研究計画は,A.からF.までの6つの小課題から構成されている.そのうち,本年度においては,A.とB.の2つの課題について重点的に取り組んだ. まず,「A.視覚要素の局所的配置に関する地図総描技法の導入」に関しては,地図総描技法の代表的な編集操作群のうち,視覚要素の局所的配置に関する「転位」と「取捨選択」の操作を,制約付き最適化問題として定式化を行った.「転位」に関しては,視覚要素間の相対的な位置関係を保持するハード制約のもと,縮尺の違いにより生じる要素同士の衝突を回避するためのソフト制約を導入し,線形計画法を用いて実現を図った.また「取捨選択」に関しては,地図要素それぞれの存在(有無)を論理変数として表現し,整数計画法に定式化を拡張することで実現を図っている.本小課題においては,実際の地図データについても適用して評価を行い,計算の高速化法または近似計算法の必要性を認識するところまで至っている. 次に,「B.視覚要素の大局的配置のためのメンタルマップの高度化」においては,視覚要素の大局的配置に関する「集約」と「簡単化」を,制約付き最適化問題として表現するための,初期的な定式化と実装を行った.視覚要素の大局的配置に関しては,ゲシュタルト原理に示されている全体的なかたちの記述を参照して,メンタルマップの高度化を図る必要があり,そのための初期的なユーザテストの実施と得られた結果の解析作業も進めている. 上記2つの小課題は,来年度以降も引続き取り組み,地図総描技法の高度化及び統合化を進めていく予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,まず初期段階で,「転位」,「取捨選択」,「集約」,「簡単化」の4つの基礎的な地図総描技法個々の定式化を図る必要がある.そして,これら4つの操作は,元来衝突があり同時には達成できないため,与えられた視覚要素配置そのものに基づき,4つの総描技法のトレードオフを考慮に入れながら,全体として最適化を行う必要がある.そして,その全体のバランスを取るための道具として,大局的配置を制御するためのメンタルマップの高度化が必要となってくる. 現在,課題A.で取り組む地図総描技法「転位」と「取捨選択」に関しては,前者は線形計画法,後者は整数計画法を用いることで,制約付き最適化問題としての基礎的な定式化及び実装作業は終了している.さらに,幸運にもこの2つの操作のトレードオフを考慮に入れた最適化も,既に定式化が図られている.もともと,この作業を研究計画3年目の上半期までは続ける計画であったため,その点においては計画より早めに研究が進行していると考えられる. これに対して,課題B.で取り組む「集約」と「簡単化」は視覚要素全体の構造に関する操作が基本となるため,その最適化問題の定式化には注意が必要である.具体的には,大局的配置に関する地図総描技法は,視覚要素を構成する形状のトポロジーが変化する場合も想定されるため,最適化対象となる目的関数の定義域が連続にならない場合がある.現在この「集約」および「簡単化」の操作においては,予備的な定式化と実装作業が行われているが,まだ個々の技法の実装にとどまっており,他の総描技法との統合が今後の課題となる.こちらも,計画3年目の下半期までは研究作業を続ける予定であるが,より集中的な作業が必要となる.
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今後の研究の推進方策 |
来年度以降進めていく当面の技術課題として,以下の4つを想定している. 1つ目は,現在定式化と実装を終えている,視覚要素の局所的配置に関する「転位」と「取捨選択」の地図総描技法の最適化計算の高速化である.この問題は,現在「取捨選択」が整数計画法で実現されていることに起因する.近年最適化計算用のソルバーは,効率よく混合整数計画問題を解くことができるが,それでもその計算は一定の時間を要する.ここでは,整数計画問題を近似的に解くことを考え,よりその最適化計算の高速化を図る. 2つ目は,視覚要素の大局的配置に関する「集約」と「簡単化」の定式化および実装の高度化である.現在得られている定式化と実装は,その地図総描技法の適用範囲自体が限定されたものとなっている.個々の地図総描技法を,より一般的な視覚表現に対応できるように定式化及び実装を図ることが重要である. 3つ目は,上記に挙げた4つの地図総描技法が互いに衝突することを考慮に入れて,地図表現の最適化におけるトレードオフ解を求める手法の実現である.この課題の実現の初期段階として,現在「転位」と「取捨選択」の操作に関して多目的最適化手法の導入を図っている.最終的にはこれを拡張して,パレート解として4つの総描技法を統合した場合の最適解を,対話的に選択できるシステムの実装を進めていく. 最後に,これら4つの総描技法のトレードオフ解を求めるためには,個々の総描技法に対して最適化対象となる視覚要素の配置の適切な最適性の指標が必要となる.これに関しては,ユーザスタディを介した視覚要素配置の評価を介して,配置の指標に対応する目的関数の数理的な定式化を追究していく.
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