研究課題
本年度は、数理モデル化された知識を深層学習に活用する関連研究の再調査を基礎研究として実施した。微分可能プログラミングが信号処理の分野に普及するに伴い、同分野で培われてきたモデル適合(データ同化)の反復法を下地にしたディープニューラルネットの設計や、スパース信号処理・グラフ信号処理における超パラメタの学習可能化が応用され始めている。また、発展方程式等からの知識の転移と見なせる技法として、数値シミュレーションに微分可能プログラミングを導入する手法の応用がいくつかの分野で散発的に見つかるようになった。本研究では、これらの応用や技法を順・逆問題理論の観点から考察し、利点・欠点と研究の余地を整理している最中である。医工学応用では、数理モデルからの知識の転移を応用した肺聴診音の解析、口腔がん・唾液腺腫瘍の画像診断に関する研究開発の進捗を研究会等で報告した。特に、低ランク・スパースモデルからの転移と学習は医工学応用に非常に有効であることを見出しつつある。前年度に立案した肺聴診音の解析では、連続性の異常音を聴診音から抽出するモデルを少数データで教師なし学習できることを検証した。ただし、異常音を直接的に定量評価することは不可能であるため、聴診の付加情報との相関等で検証する必要がある。また、口腔擦過細胞の顕微鏡画像からアノテーションなしに細胞領域を高速に検出する深層学習技術を考案した。この教師なし深層学習では百枚未満の画像で十分な検出性能が得られることから、数理モデルから転移させた知識が大規模画像のアノテーションに匹敵する情報をもたらすことがあり得ることを確認できた。
2: おおむね順調に進展している
基礎研究では数理モデルからの知識の転移と学習に関する方法論的枠組みについて、順・逆問題とベイズ理論の観点から全体像を明確化できつつある。今年度は研究会等における速報的な発表が主体であったが、口腔がん・唾液腺がんの画像診断等、新たな医工学応用を展開できている。特に、教師なし深層学習の性能および口腔擦過細胞診への応用効果は、本研究課題の開始時には予想していなかった新しい発見である。
数理モデルからの知識の転移と学習の方法論的枠組み作りを継続する。また、医工学応用において深層学習モデルから抽出される特徴量が病態等に関する情報も表現しているか検討し、差分知識獲得の可能性を考察する。関連研究の調査結果を踏まえ、基礎研究と医工学応用の成果および本研究の発展の余地を整理する。
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Human Resources for Health
巻: 19 ページ: 71
10.1186/s12960-021-00614-y