研究課題/領域番号 |
19H04181
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
野村 泰伸 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (50283734)
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研究分担者 |
鈴木 康之 大阪大学, 基礎工学研究科, 講師 (30631874)
MILOSEVIC MATIJA 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (50840188)
佐古田 三郎 独立行政法人国立病院機構大阪刀根山医療センター(臨床研究部), 独立行政法人国立病院機構大阪刀根山医療センター, 名誉院長 (00178625)
遠藤 卓行 独立行政法人国立病院機構大阪刀根山医療センター(臨床研究部), 独立行政法人国立病院機構大阪刀根山医療センター, 研究員(移行) (40573225)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | データ同化 / 立位姿勢ゆらぎ / 歩行周期ゆらぎ / 間欠制御 / パーキンソン病 / 運動制御 / ベイズ推論 |
研究実績の概要 |
動的疾患とは,ヒトの生体制御系を非線形力学系とみなし,疾病の発症を,系のパラメータ変化に伴う分岐現象(アトラクタの変容)と捉える概念で,心循環系や精神神経系の様々な疾患の発症メカニズムに対して,システム生理学的な解釈を提供してきた.しかし,動的疾患の概念の実証は困難で,臨床医学における病態予測を可能にする程の定量化は実現していない.その原因は,生体計測データと生体機能の数理モデルの体系的な融合が不十分であったことにある.本研究は,生体ビッグデータの取得や複雑な数理モデルの高速計算が容易になった時代背景を受け,特に運動障害疾患に焦点を絞って,データサイエンス時代に相応しい新しい動的疾患論を構築することを目指す.具体的には,患者と健常者の立位姿勢・歩行運動を縦・横断的に計測し,得られたデータに,近年申請者らが提唱している姿勢と歩行運動の神経制御の「良いモデル」を同化することで,加齢や疾病,治療介入によって,運動機能や安定性が変化する過程を,同化モデルのパラメータ(分布)の被験者横断的分布および個別縦断的変化として捉える.こうして得られた「モデル族」の動態解析により,各疾患に固有の力学的構造を抽出し,患者個別的な定量診断・治療意思決定補助・病態予測に繋げたい. 本研究では,近似ベイズ計算を用いて,静止立位姿勢および定常二足歩行の間欠制御モデルを姿勢・歩行データに同化することを目指すが,初年度である2019年度は,立位姿勢モデルのデータ同化に有効な姿勢変動データの要約統計量の検討と,歩行運動のデータ同化に用いる定常二足歩行の間欠制御モデルにおける歩行周期ゆらぎの特性解析を実施した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述したように,本研究では,近似ベイズ計算を用いて,静止立位姿勢および定常二足歩行の間欠制御モデルを姿勢・歩行データに同化することを目指すが,初年度である2019年度は,立位姿勢モデルのデータ同化に有効な姿勢変動データの要約統計量の検討と,歩行運動のデータ同化に用いる定常二足歩行の間欠制御モデルにおける歩行周期ゆらぎの特性解析を実施した.過去数年の間に,我々が提唱する立位の間欠制御モデルを姿勢ゆらぎデータに同化する他の研究グループによる試みが発表されており,そこで用いられた姿勢ゆらぎの要約統計量を本研究でも用いることできると予想していた.しかし,先行研究は必ずしも様々な研究対象者が示す多様な姿勢ゆらぎデータにモデルを同化することが想定dされておらず,彼らが用いた要約統計量だけでは,健常者に加え,パーキンソン病患者等の神経疾患患者の姿勢ゆらぎデータにモデルを同化することが困難であることが判明した.そこで,健常者のみならず神経疾患患者を含む多様な研究対象者の姿勢ゆらぎデータに我々の間欠制御モデルを同化することを可能にする要約徳軽量の検討を実施し,ようやく妥当な統計量が明らかになってきたことが初年度の最も重要な成果であった.また,静止立位姿勢ゆらぎのみならず,定常二足歩行時の歩行周期ゆらぎの「良いモデル」の候補である,ヒト歩行歩行周期ゆらぎの主要な特性を再現する能力のある二足制御の数理モデルを確立し,その成果を著名国際誌に発表することができたことも初年度の大きな成果であった.
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今後の研究の推進方策 |
2年目となる2020年度は,健常者および様々な重症度のパーキンソン病患者の姿勢ゆらぎデータに間欠制御モデルを同化し,制御系のパラメータ値の姿勢機能依存性を明らかにすることを目指す.また,新型コロナウイルス感染の拡大防止を最優先しつつも,データ同化の試みと並行して,パーキンソン病患者のみならず,姿勢・運動機能障害を伴う他の脳神経疾患患者の姿勢ゆらぎデータの取得を目指す.もし新規患者の姿勢・歩行ゆらぎの計測が困難である場合,あるいは十分な件数の新規計測実験を実施することが難しい場合もふ含めて,これまで関連研究で実施・取得してきた立位姿勢変動に伴う脳活動(脳波)のデータ解析も進め,身体運動データと共に脳波・脳活動データにモデル動態を同化する方法論の確立も目指す.さらに,二足歩行制御モデルの改善,定常二足歩行周期ゆらぎデータの詳細解析も実施する計画である.
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