研究課題/領域番号 |
19H04183
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
末谷 大道 大分大学, 理工学部, 教授 (40507167)
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研究分担者 |
北城 圭一 生理学研究所, システム脳科学研究領域, 教授 (70302601)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 安定カオス / 内在的機構化 / 視覚的注意 / 再帰型神経回路網 |
研究実績の概要 |
脳は外部の環境から様々な情報を受け取る。このとき、外部からの情報は皮質を刺激し、さらにその際の反応が神経細胞間相互の結合を通じて再び皮質を刺激することによって脳は自らの活性状態を保ち続ける。Hebbは、この脳の自発性活動が知覚の汎化・記憶の安定性・注意の変わりやすさといった機能とどのように関係するのかという問いを通じてヘッブ学習則・セルアセンブリ・位相連鎖などの巨視的な心理現象と微視的な神経生理機構を結びつける重要な諸仮説を提示した。特に、感覚刺激の繰り返しの反復に対して連合野の活動に再現性の高い活動が生じる際、単発の感覚事象に誘発される活動による機構化とは異なり、大きな集団の中で細胞が律動的に発火する自発活動による機構化が起きると考え、これを「内在的機構化」(intrinsic organization)と名付けた。 本研究は、この脳活動の多様かつ柔軟な性質を「安定カオス」という非線形動力学の言葉で概念化し、その計算原理としての基盤を構築することを目指している。その具体的な試みとして、視覚的な注意の時間的な特性に関する研究を行っている。 本年度では、不連続な変化を持つニューロンモデルから構成されたネットワーク系を作成し、リザバー計算としての能力を基本的な時系列予測の問題などに適用し、安定カオス性との関係について探求した。現在までのところ、通常のリザバーとの明確な差は確認されていないが、例題を増やして数値シミュレーションで得られた結果を系統的に整理している段階であり、一部分の結果をリザバーにおけるカオス遍歴の発生に関する研究に反映させた。さらに、共通の外部入力に対してどの程度同一の応答性を示すのか(コンシステンシー性)についても調査をすすめている。また、Dehaneらのグローバルワークスペース理論を参考に、リザバー型の視覚的注意の情報処理に関する数理モデルの素案を立てた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では初年度に視覚的注意に関する情報処理モデルを立て数値シミュレーションまで行う予定であったがそこまでに至っていない。また、研究分担者の異動に伴っての実験環境の構築が未だ不十分でどのような実験パラダイムで脳波計測を行うか議論の段階に留まっているため。
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今後の研究の推進方策 |
(1)研究代表者が中心となって、昨年度で素案を建てた神経回路網のプロトモデルを数理モデルとして定式化する。そして、プログラミング実装し数値シミュレーションおよびそのデータ分析を通じて、その情報処理能力や非線形ダイナミクスとしての特性を調べる。特に、分岐パラメ タの変化に応じて安定カオスの性質が情報処理や学習のスピードにどのように寄与するかに着目して解析を行う。 (2)RSVP 課題の作成と認知心理-脳波計測実験パラダイムの構築 研究分担者が中心となって、脳の自発活動と認知能力やワーキングメモリとの関係を調べるための実験パラダイムを構築する。具体的には、P300 spellerなどのブレインマシンインターフェース分野で用いられる文字入力法を参考に画面に表示される視覚刺激への注意能力と自発活動と の関係を調べる。この際、個人差に着目することで個人個人で異なる自発活動の統計的性質(例えばアルファ波の強さなど)と課題へのパフォーマンスの関係に着目する。研究代表者と分担者が協力してデータ分析を行う。
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