研究課題/領域番号 |
19H04185
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
工藤 卓 関西学院大学, 理工学部, 教授 (10344110)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 3Dクラスタリング / 培養神経回路網 / 神経誘発応答パターン / 自発性神経活動パターン |
研究実績の概要 |
本年度は主として, ラット海馬分散培養神経回路網における自発性細胞外電位の時系列データについて,時間窓の一定幅に依存することのないデータ駆動アプローチによる手法を確立した.具体的にはタイムスタンプ付きの神経活動電位発火数空間分布データを3次元で表現し,X-means クラスタリングを行うことでセル・アセンブリの抽出を試み,セル・アセ ンブリは時間方向ではなく空間的な広がりを持っている可能性を示した.類似したセル・ア センブリ群の抽出には,相対的な類似度のみが定義されている空間でもクラスタリングを行 うことができるラフクラスタリングを今年度から新たに導入した.閾値を高く設定したタイトなクラスタリング を行うことで,極めて類似したセル・アセンブリの抽出に成功した.また,神経回路網の活動 をセル・アセンブリ群を状態集合とする確率過程として解析した結果,特定のパターン同士での確率が有意に高くなることはなく,全体的に低確率であった.これは状態の遷移がランダム に起きていることを示している.今年度は自発応答の解析を行ったが,誘発応答に対して同様の解析を行った場合は,有意に高い確率で状態遷移が起こるパターンが存在し,階層的な 情報処理を行っていることが示せる可能性が示唆された.また,セル・アセンブリ間の状態遷移の距離が最大距離と比較して小さかったことから,セル・アセンブリはある程度類似したパターンへの遷移が多いことが示された.類 似したパターンが連続して出現する区間があった時,その連続したパターンが新たな一つの パターンを構成するという階層的な情報処理を行っている可能性が見いだされた.これらの結果は,神経回路網の活動パターンを内部状態遷移として解析することが可能であり,機械学習による識別の対象として妥当である可能性を示唆する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は,開発した参照型階層クラスタリング手法の改良/修正を中心に行ったが,この点に関しては概ね計画通り研究が進展している.但し,深層学習を適用するための前処理としてのデータ集約手法に関しては若干の遅れがあり,生体計測データが不足している.これは,2019年度は新型コロナウイルス感染症の蔓延による緊急事態宣言のため,培養神経回路網の維持が困難な期間があったことによる.また,一時的に機器を停止した後に再起動したところ,故障した機器がいくつかあり,研究環境の修復にかなりの時間を要した.このため,本年度はセルアセンブリの抽出と空間的なマッピング手法に集中して研究を行った.この過程でラフクラスタリングを用いたセルアセンブリの新たな抽出手法を確立した点は研究計画より発展した内容である.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,今年度若干データが不足している2次元神経回路網時空間発火パターンデータを収集することに注力するとともに,自発性電気活動と誘発応答の関連性を明らかにする.また,研究の4年目には,ラフクラスタリングによる手法と新しいクラスタリング手法とを統合し,神経回路網におけるセルアセンブリが外界の事象を表象する様式を明らかにする.その上で,パターンと情報処理メカニズムとの関係性を再考する.
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