研究課題/領域番号 |
19H04187
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
原 正之 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (00596497)
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研究分担者 |
高崎 正也 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (10333486)
境野 翔 筑波大学, システム情報系, 准教授 (70610898)
金山 範明 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 研究員 (90719543)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | コグネティクス / ロボティクス・ハプティクス / 身体的自己意識 / 身体所有感 / 運動主体感 |
研究実績の概要 |
2020年度は,コロナ禍によりヒトを対象とした実験の実施に制限があったものの,感染症対策を十分に取りつつ,いくつかの心理学行動実験を実施してヒトの身体認知や自他認識操作の基本メカニズムに関する知見や新たな可能性を得ることができた.例えば,「存在の感覚」(felling of a presence:FoP)の知見とActive Self-Touch可能なラバーハンド錯覚(RHI)の知見を融合した自他認識操作実験を行った結果,従来の身体錯覚実験パラダイムにおいてコントロール条件(錯覚が生じない条件)として扱われてきた非同期刺激で,FoPや他者に触れられた感覚(受動性錯覚:passivity experience)が体験されるという報告が得られた.この結果により,非同期刺激の身体認知変容に対する新たな可能性を示唆した.他にも,RHI実験において人工/仮想身体の見え方が身体所有感に及ぼす影響について検証した.その結果,視覚情報の鮮明さやコンテキストなどによっては,人工/仮想身体の外見的不一致や空間的不一致がある程度許容されることや主観的な体験が同じであっても異なる脳活動になることなどを示した.
また2020年度に行った新たな試みとしては,FoPや自他認識の変容を強く引き起こすための力提示方法の提案や新しい実験用プラットフォームの試作も行った.具体的には,FoP実験における力提示に仮想コンプライアンス空間(力フィードバックを受けない領域)を導入して力覚的介入を離散的に行う手法を提案し,それを実現するための新しい実験装置(3/6自由度パラレルリンクロボット)の試作とその基本性能の評価を行った.また,既存の実験システムを用いた心理学行動実験により,FoPの実験的誘起や自他認識操作に対する提案手法の可能性について確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の研究では,主にFoPの実験的誘起とヒトの自他認識操作に関する心理学行動実験の実施に主眼を置いた.人工/仮想身体の見え方がRHI及ぼす影響を明らかにした研究成果は,国際学術雑誌に2本採択されており,2020年度に執筆して国際学術雑誌に投稿したFoPとフルボディ錯覚に関する研究成果も,本報告書作成時点でin press状態となっている.さらには,ロボティクス・ハプティクス技術を用いたFoP研究ついて,身体スキーマ(body schema)と身体イメージ(body image)に関する英語書籍の分担執筆も行っており,コロナ禍にもかかわらず計画以上の業績を上げることができたと言える.
また,新たなFoP実験のアイデアとその実現のために試作した実験システムについては,第21回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会(SI2020)にて発表を行い,優秀講演賞を受賞している.さらには,スイス連邦工科大学(EPFL)の認知神経科学研究グループと共同で行った心理学行動実験では,新しく提案した力提示方法の適用により従来手法よりも強くFoPと受動性錯覚を引き起こせることを確認しており,現在はさらなる検討を進めて国際共著論文として公表することを計画している.
以上のことから,本研究課題は全体として研究計画に従って概ね順調に進展しているものと考える.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として,2021年度も新型コロナウイルス感染症対策による制限がしばらくの間続くものと予想されるが,引き続きヒトを対象とした心理学行動実験を行っていくことを計画する.当面は,FoP実験パラダイムとActive Self-Touch可能なRHI実験パラダイムを融合したヒトの自他認識操作実験を行っていく予定で,これによりセルフタッチ錯覚からFoP体験へと変わる瞬間あるいはその逆を捉えて,ヒトの自他認識の境界について明らかにすることを試みる.この心理学行動実験がある程度進んだところで,EEG解析を専門とする研究分担者と議論を行い,認知神経科学実験(脳機能計測も含めた実験)の方法についても検討していく.また,仮想コンプライアンス空間を用いた力提示方法を用いたFoP実験については,2021年度中に国際共著論文を公表することを目指すとともに,実験システムの脳機能計測対応化(例えば,fMRI対応化)なども図る.
新規技術開発については,2020年度に試作した実験システムのさらなる改良を行うとともに,実際にFoP実験や自他認識操作においてその有効性を確認する.また,超音波を専門とする研究分担者が開発した皮膚感低減装置とセルフタッチ錯覚パラダイムを用いた身体所有感操作システムを完成させ,これにつても心理学行動実験によりその有効性を確認する.また,機能的電気刺激(FES)を用いたリーダフォロワシステムの開発について,引き続きFESを扱う研究分担者と議論を行い,運動主体感の制御により自他認識操作を可能にする実験システムについても設計・試作を行っていく.
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