研究課題/領域番号 |
19H04188
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
趙 漠居 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任講師 (30825378)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 多肢型飛行ロボット / 知覚統合システム / 環境適応制御 / 空中操作能力 |
研究実績の概要 |
本研究は,多肢型飛行ロボットという発展的身体構成を実現することで,環境適応可能な複合的移動様式と操作能力の相乗的獲得するという目的を中心に進めている.2021年度は,(1)多リンクの弾性特性に適応した飛行制御手法,(2)多肢接触を利用した物体操作手法, (3)環境接触を活用した空中操作行動の深化,(4) 屋外環境での知覚システムによる自律行動を実現した. まず,今年度は機体の弾性特性に着目し,ねじり振動による飛行の不安定要素のモデル化に成功し,振動抑制可能な制御手法を提案した. これにより大型シリアルリンク形状の安定な変形飛行を実現した. 次に, 四足ロボットの四肢を利用した大型球状物体の転がり動作の実現に着目し,強化学習による動作の習得に取り組んだ.四肢の時系列の関節角度・角速度情報及び操作対象物体の位置・姿勢を観測量として,目標の関節角度指令を出力するという枠組みを方策ベースの強化学習手法で学習した.モデルなしの多肢接触操作を実機で実現した. さらに,前年度から取り組んできた環境接触を活用した空中操作行動を深めてきた.特に,環境への吸着機構を導入することで, 天井といった任意の場所に自身を固定することが可能になった.さらに,天井への固定の安定性と重心バランスを考慮した飛行制御手法の確立により,もう片方の末端を手先として用いることが可能になり,天井近くでの穴開け動作といった空中作業を実現した. 最後に,前年度に取り組んだ知覚統合システムによる環境認識を屋外環境で評価してきた.画像処理による物体検出手法において深層学習モデルを導入し,さらに飛行ロボットにも搭載できる小型エッジAIデイバスに格納するための量子化を実施し,実時間での高精度な空中物体検出を可能した.これにより,高速飛行物体の自動追従・捕獲や地上ブロックの自動把持運搬を屋外環境で実現できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では多肢型飛行ロボットに着目した知覚統合と環境適応制御の構成法の研究テーマであったが,今年度では,多リンク型飛行ロボット構造の弾性特性を解明し,さらにそれに起因する飛行の不安定要素を抑制できる制御手法を提案した.こういった振動抑制の飛行制御手法の確立はロータ型飛行ロボット全般に適用できる成果であり,強い波及効果を示している.次に,いままでロボットにとって困難とされてきた高所作業の実現に重点的に取り組んできた結果,天井付近のバルブ開け閉め動作を世界で初めて実現した.このような多肢型飛行ロボットの高い空中操作能力は産業界にも大きなインパクトを与えてことができた.さらに,内蔵センサを用いた知覚統合システムによる屋外環境での物体・環境認識の実現はその高いロバスト性を示しており,このシステムを導入した飛行ロボットは国際ロボット競技会で入賞するなど,その有用性は高く評価されている.これらの成果は当初の研究計画以上の広がりを見せている.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の成果を踏まえて,1) 推力を利用した歩行制御の深化; 2) 環境に応じた移動様式切り替え戦略の構築; 3) 多肢構造を活用した物体操作方法の確立,を目指していく.
1) 推力を利用した歩行制御の深化:推力機構を有する多肢構造モデルの足先反力・全身重力・分散推力から構成される静力学的な釣り合いの定式化を確立し,仮想環境下での力学シミュレーションを評価した.今年度は,倒立振子モデルをベースとした全身バランス制御方法と,歩行時の推力補償を加味した有脚軌道計画法を模索する. 2) 環境に応じた移動様式切り替えの戦略構築:前年度に確立した空中移動方法のための知覚統合による周辺環境認識手法を移動様式の能動的な切り替えへと展開していく.目的地までのエネルギー消費・移動時間など多様な評価軸を設けることで,最適な移動経路と移動様式を計算する大域的な移動戦略の実現を目指す. 3) 多肢構造を活用した物体操作方法の確立:前年度ではシリアルリンク型飛行ロボットの両末端の二点接触を利用した多様な空中操作行動を確立した.今年度は多肢構造モデルによる多点接触を活用した空中での物体・環境操作のための安定な制御手法と動作計画の拡張を実現していく. .
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