研究実績の概要 |
本研究の目的は、全原子モデルを用いた分子動力学シミュレーション(MD)とエネルギー表示溶液理論による自由エネルギー計算から、凝集性などタンパク質の相互作用に対する共溶媒添加効果を解析することである。前年度までに、パーキンソン病に関わるNACoreペプチドを対象として、中性およびイオン性の共溶媒がその凝集性に及ぼす効果を解析し、多変量解析に基づいて凝集性の変化につながる相互作用成分を明らかにしてきた。本年度は、解析対象をタンパク質のリガンド結合に拡げた。全原子MDとエネルギー表示溶液理論の融合手法および多変量解析を、前年度までと同様に用いた。共溶媒種は、尿素、エタノール、ポリエチレングリコール(PEG)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、および、1,6-ヘキサンジオールである。尿素とエタノールは代謝物であり、PEGは水溶性のクラウダー、DMSOは凍結保護剤、そして、1,6-ヘキサンジオールは相分離阻害剤として利用されている。共溶媒添加による結合自由エネルギーの変化を全原子モデルで計算したところ、尿素、DMSO、または、1,6-ヘキサンジオールを添加すると解離が促進され、エタノールまたはPEGを添加すると結合が促進されることが分かった。尿素とDMSOの結果は、前年度までのNACoreペプチドの凝集に関わる結果とパラレルであり、1,6-ヘキサンジオールやエタノール、PEGについての結果はタンパク質凝集の一般的な傾向と一致している。共溶媒の選択によりリガンド複合体を解離と促進の両方向にシフト可能であることが明らかになった。さらに、共溶媒添加に伴う結合自由エネルギーの変化を、静電成分、分散引力成分、排除体積成分などからの寄与に分割したところ、共溶媒種によらず、静電成分は結合を促進し分散引力成分は解離を促進することが示された。水と比較しての共溶媒種の極性やサイズを反映している。
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