本科研費では、実世界センシング技術を用いた先進的な学習支援環境の構築を目的として研究を進めた。その背景として、小中学校生を対象としたTIMSS調査で日本は諸外国に比して高い学習到達レベルにあるものの、科学に興味を持てない国民の割合が高いという特異な状況であることが挙げられる。このことは学校教育における科学的概念の理解が、実世界における科学的探究への動機付けに繋がらない可能性を示唆する。よって、近年のICT技術を活用した実世界センシングにより、学校教育を含む実世界での学習者の行動データを収集、分析する。本研究では教室での学習よりも時空間的な制約が小さい博物館等の実世界での学習を対象とする。各学習者のジェスチャや発話、学習者間のインタラクションやグループダイナミクスの分析等に基づき、実世界型学習支援環境の設計と提案を目指した。 本科研費研究はCOVID-19により1年延長したが、依然としてその影響を完全に排除することはできず、博物館等での当初計画通りの実証実験は困難な状況であった。そこで、協力関係にある組織の現状に柔軟に対応しつつ、可能限り研究目的を達成することを目指した。主な研究成果は以下の通りである。 1.博物館での来館者の行動観察とモデル作成:来館者の館内での活動を観察し、その行動モデルを構築した。さらに、模擬的な展示室を別途構築することで、より大規模な実験を実施するとともに詳細なモデル設計を進めた。 2.来館者行動モデルに基づく屋内測位システムの構築と評価:来館者の行動認識および適切な学習機会の提供のために、来館者の位置情報をリアルタイムで把握する必要がある。そこで、1の成果を基づく来館者トラッキングシステムを構築した。評価実験を通して、従来手法よりも測位誤差が小さく、現場で展開可能なシステムであることを確認した。
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