研究課題/領域番号 |
19H04233
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
宮崎 雄三 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (60376655)
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研究分担者 |
鈴木 光次 北海道大学, 地球環境科学研究院, 教授 (40283452)
山下 洋平 北海道大学, 地球環境科学研究院, 准教授 (50432224)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 有機態窒素 / 海洋大気エアロゾル / 有機エアロゾル / 窒素固定生物 |
研究実績の概要 |
本年度は、海洋の窒素固定生物による大気反応性窒素の生成への影響を評価するため、温度・光照度条件の制御の下、人工海水中でトリコデスミウム属を培養し、その過程での大気反応性窒素の組成・濃度を測定する室内実験を行った。培養は温度制御したインキュべーター内に設置したポリカーボネート製ボトル内で人工海水培地を使って行った。大気中の粒子(PM2.5)・ガスを多段型インパクターにより石英繊維フィルター上に捕集した。大気・海水試料は約24時間毎ごとに採取した。大気試料中の水溶性全窒素濃度と水溶性有機炭素濃度、および海水試料中の溶存態窒素濃度と溶存態有機炭素濃度を測定した。また、大気中の無機態窒素濃度を測定し、水溶性全窒素と無機態窒素の濃度の差を水溶性有機態窒素濃度と定義した。トリコデスミウムの現存量変化を把握するために、蛍光光度計を用いた生体内クロロフィルa蛍光強度と超高速液体クロマトグラフィーを用いたクロロフィルa濃度の測定を行った。 約1か月間の培養実験を通して、トリコデスミウムの増殖期から減衰期までの人工海水中の溶存態窒素濃度および大気反応性窒素濃度の時系列変動を捉えることができた。増殖期におけるクロロフィルa濃度と人工海水中の溶存態窒素、溶存態有機炭素濃度およびその比の増減には正の相関関係が見られたことから、主に窒素固定に伴って溶存態窒素と溶存態有機炭素が海水中へ放出され、特に溶存態窒素が溶存態有機炭素に対してより多く放出されていたことが示唆された。増殖期では、クロロフィルa濃度と大気中の水溶性有機態窒素濃度も正の相関関係を示した。さらに大気中の水溶性有機態窒素濃度はアンモニウム塩の濃度よりも有意に高い結果が得られた。これらの結果から、海水中のトリコデスミウムの増殖に伴う大気への水溶性有機態窒素の放出が室内実験により初めて実証された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
船上観測結果から示唆された、窒素固定生物による大気有機態窒素の生成について、室内実験で検証するための海洋微生物培養-大気捕集システムを構築でき、室内実験の環境は整った。初期結果も得られ、トリコデスミウム培養―大気反応性窒素測定の実験条件の最適化も進んでおり、当初の研究計画について概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も主に海洋微生物培養-大気捕集システムを使用し、一般的なシアノバクテリアであるトリコデスミウムを用いた室内培養-大気捕集実験を行うことで、窒素固定生物が水溶性有機態窒素生成に及ぼす影響と、生成の支配要因を明らかにする。大気捕集フィルターへの干渉成分(ブランク)濃度が最小となるよう、大気捕集条件(実験水槽内の圧力、エアフィルタ体積の決定等)の最適化から進める。また、フローサイトメータを使用し、人工海水中のバクテリア濃度も測定することで、大気の反応性窒素生成へのバクテリアの影響の有無についても調べる。これらを進めた上で窒素固定生物による反応性窒素成分の放出量、水溶性有機態窒素の粒子相-気相分配、放出量の支配要因(海水温度、光強度など)を明らかにするため、研究を推進していく。
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