研究実績の概要 |
前年度に開発した、液中の個別粒子の複素散乱振幅を定量的に測定する原理である、複素散乱振幅センシング(Complex Amplitude Sensing)についての研究成果を、査読付き国際誌に出版した[Moteki 2021, Opt. Express]。従来研究に対する本論文の新成果は、(1)光軸方向における粒子の軌道中心と分布幅が複素散乱振幅測定の系統誤差・統計誤差の主な因子であることを解明したこと、(2)粒子軌道中心とビームウエスト中心の位置を1um以内の確度で適合させるアラインメント技法の開発、(3)ビームウエスト中心近傍のを通過する粒子の信号波形のみを抽出することで有限の流路幅を持つフローセルを用いて粒子軌道を制限した際の測定の統計誤差を調節する方法、(4)入射波が理想的な平面波ではなくGaussian beam であることを考慮したうえでビームウエスト径と測定粒径上限との関係を評価する方法を開発したこと、さらに(5)信号波形から複素散乱振幅を導出する高精度なインバースモデルの開発とその実証である。本研究成果により、粒径範囲0.2-5umの液中粒子の複素散乱振幅を高精度で測定できることが示され、従来研究に比べ、複素散乱振幅データから粒子の物理特性の推定する際の信頼性も大きく向上することになる。この新手法を用いて、黒色炭素・鉱物ダスト粒子・生物粒子など、環境中の固体粒子種を判別できることを実験的に示した[Yoshida Moteki et al. 2022 Aerosol Sci, Technol.]。複素散乱振幅センシングを応用して環境中の黒色炭素や酸化鉄等の凝集体粒子について光学特性を推定するため、粒子群の複素屈折率・粒子形状・粒径分布を複素散乱振幅データ点群から推定するための逆問題に用いる理論計算値のテーブルを大幅に拡張した。
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