本研究では、都市域における大気汚染物質の動態を建物~街区スケールで把握するため、数十センチメートル間隔で計測可能な車載ライダーを開発することを目的とする。高層ビル街に囲まれた都市キャノピー内外の大気汚染濃度を把握し、従来型の広域リモートセンシングと多点に展開する地上定点観測との空間ギャップを埋める情報が得られることが期待される。 本課題で開発したアイセーフ光源を用いた車載ライダーは、距離7 mの近傍から最良で距離分解能37.5 cmの観測が可能である。また、消費電力を抑える工夫を行い、ポータブルバッテリーのみで約50時間、車の12V電源からの給電を組み合わせると80時間以上の連続運転が可能である。その他にも、障害物検知ライダーを活用したレーザー照射に対する安全対策機能など、安全な移動観測を実現するための仕組みを開発した。このライダーを用いて、2020年~2022年にかけて東京都心の大気汚染物質空間分布計測を複数回実施し、境界層内のエアロゾル空間分布の時間変動や、交通量の異なる平日と休日の汚染物質分布の特徴、海陸風との関係などを調べた。さらに、京都から東京間の都市をまたぐ移動観測を実施し、都市の汚染物質が拡散する範囲を可視化した。また、ドップラーライダー等による気象要素の鉛直分布観測との比較を実施し、とくに接地境界層付近の大気汚染物質分布の特徴を調べた。加えて、水平移動観測による圃場直上のエアロゾル分布計測など、車載ライダーが適用できる分野の開拓を行った。
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