研究課題/領域番号 |
19H04243
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研究機関 | 埼玉県環境科学国際センター |
研究代表者 |
堀井 勇一 埼玉県環境科学国際センター, 化学物質・環境放射能担当, 専門研究員 (30509534)
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研究分担者 |
大塚 宜寿 埼玉県環境科学国際センター, 化学物質・環境放射能担当, 担当部長 (30415393)
櫻井 健郎 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境リスク・健康研究センター, 室長 (90311323)
今泉 圭隆 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境リスク・健康研究センター, 主任研究員 (80391069)
黒田 啓介 富山県立大学, 工学部, 准教授 (30738456)
西野 貴裕 公益財団法人東京都環境公社(東京都環境科学研究所), 環境リスク研究科, 主任研究員 (90506619)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | メチルシロキサン / 多媒体モデル / 東京湾流域 / 排出量推定 / リスク評価 / シリコーン / 環境計測 |
研究実績の概要 |
特異な物性を示すシロキサン類について、多媒体中の濃度分布を実測により明らかにするとともに、地理的分解能を有する多媒体環境動態モデル(G-CIEMS)による予測を行う。排出を含めた環境挙動の全体像を明らかにするため、本年度は以下を実施した。 環境モニタリング及び排出源解析:シロキサン類の水質モニタリングとして、調査の空白地域であった利根川水系上流から中流部、千葉県主要河川を含む東京湾流域について調査を実施し、その濃度分布を把握した。大気については、関東広域の9地点において、通年観測を実施した。大気中の濃度レベル及び化合物組成は調査地点により特徴がみられ、点源の影響とみられる季節変動が観測された。得られた測定結果に非負値行列因子分解法を適用し、シロキサン類の排出源の種類及びその寄与率を推定した。 排出量推定:シロキサン類(環状体:D4、D5、D6)の大気系・水系環境への排出量推定として、日用品の使用(生活系)、シリコーン製造工場(産業系)等からの排出係数を検討した。国内総使用量等の推計値をベースに、シロキサンを使用するポリマー製造工場のプロセスの違いや製品からの排出量の設定根拠に応じて推計した。シロキサン製造工場と主要ポリマー製造工場を点源排出、それ以外を面源排出(人口按分)に分類し、モデル入力用の排出量データを作成した。 多媒体モデル:環状シロキサンの多媒体挙動を予測した。実測値とモデル予測値について濃度範囲を比較した結果、大気についてはD6がやや過大予測だったもののおおむね合致、河川については3物質ともにおおむね合致、河川底質については3物質ともに過大予測の傾向であった。多媒体間での物質収支を比較し、大気と河川底質中の存在量が卓越していること、河川・河川底質中濃度には、大気や土壌などを経由した移行量に比べ、点源および面源からの直接排出が大きく寄与していることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の特色は、環境モニタリング、排出源解析、排出量推定、及び多媒体モデルを融合する多角的なアプローチにより取り組むことである。以下の理由により、各サブテーマは概ね計画通り進捗している。 環境モニタリング及び排出源解析では、分担者だけでなく、地方環境研究所等の協力を得て、調査対象地域の大気、河川水、及び底質を幅広く収集し測定することで、計画に沿って、環境中濃度分布の把握を進めた。このうち大気調査では、関東広域の9地点及びバックグラウンド地点において調査体制を整え、年間の濃度分布及び季節変動を把握することができた。得られた測定結果に非負値行列因子分解法を適用し、シロキサン類の排出源の種類及びその寄与率を推定した。 排出量推定については、シロキサン類の大気系・水系環境への排出量推定として、日用品の使用(生活系)、シリコーン製造工場(産業系)等からの排出原単位を作成した。当初予定していたシリコーン製造工場のオンサイト調査の実施が困難となったものの、文献調査やシリコーン工業会への直接のヒアリング等により、排出量推定のために必要な関連情報を入手した。また、生活系の排出係数作成に関連して、化粧品等の日用品の実測を進めている。 排出量推定及び多媒体モデル解析では、大気系及び水系への排出係数やモデル計算の諸設定、排出原単位等の検討を計画に沿って実施した。特に、D4の環状シロキサンについて詳細に検討し、点源・面源からの環境排出及びその多媒体挙動を解析した。現在、実測値と予測値の比較・照合を進め、媒体による差異の比較により、モデル予測の各パラメータや排出推計方法等の不確実性の要因について再検討している。 得られた研究成果は、国際誌1報(Sci Total Environ, IF: 6.551)、国際学会1件、国内学会3件で発表し、研究成果の社会還元に貢献した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実測調査により、東京湾流域全体における大気、河川水、底質の濃度分布を概ね明らかにすることができた。最終年は、実測値及びモデルの比較・照合から、必要に応じて空白地域やバックグランド地域の実測データを補完する。排出源解析としては、環境データを非負値行列因子分解法により因子分解した濃度とモデル推定濃度の比較し、排出源別の濃度を再現できているか検証する。 シロキサン類の排出量推定として、人口一人あたり排出係数やシリコーン製造工場からの排出量を推定し、それぞれ面源及び点源として多媒体モデルへ組み込むための諸検討を引き続き実施する。国内化粧品に含まれるシロキサン類の実測により、生活系排出原単位を作成し、諸外国の値と比較・照合する。これを基にモデルに組み込むための排出推計方法を再検討する。 多媒体挙動解明のためのモデル予測については、引き続きG-CIEMSにおける計算対象領域の設定、排出原単位の推定を行うとともに、排出量を含むモデルの信頼性評価として、実測値との比較・照合に順次取り組む。大気の濃度は領域外からの移流に大きく影響を受けると予想されることから、実測調査から得られるバックグラウンド濃度に基づく検討を計算に取り入れることで推定精度の高度化を図る。モデル予測の不確実性の要因等の検討として、各パラメータや排出推計方法を再検討する。 最終的なアウトプットとして、G-CIEMSの最大の特長である地理的分解能を活用することで、シロキサン類の排出シナリオに応じた単位流域毎の濃度分布を予測し、実測ベースのみでなく排出シナリオに応じたリスク評価を実施する。
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