本研究は、「地下微生物-鉄鉱物の相互作用に基づく高度集積培養系」を研究対象として、地下圏炭素・エネルギー動態のミッシングリンクを繋ぐ未知微生物群(結晶性酸化鉄の還元に関与する嫌気的メタン酸化菌や嫌気的酢酸酸化菌)の純粋分離・菌学的特徴づけに挑み、加えて自らが近年開発・環境試料適用を達成した未培養微生物機能同定法「高感度Stable Isotope Probing(SIP)」と次世代シークエンサー解析を融合利用することで、地下物質ダイナミクスの根本的理解を目指す。高結晶性酸化鉄(Goethite、Lepidocrocite、Hematite、Magnetite等)を電子受容体に採用し、メタンと酢酸を電子供与体として200以上の培養条件で、大深度海底コア試料や陸域嫌気土壌試料の継代培養を数年にわたり継続している。嫌気的メタン酸化菌として、鉄還元能が報告されている嫌気的メタン酸化アーキアが確認されるとともに、系統学的に極めて新しい未知細菌群が高度に集積された。嫌気的酢酸酸化菌の培養ではFirmicutes門細菌が9割以上で存在する集積培養系を得た。さらに海底堆積物や陸域嫌気土壌から得られた鉄還元微生物分離株3種のゲノムを解読し、そのうち1種は比較ゲノム解析からその特筆すべき代謝潜在性を明らかにした。本年度は、これまで構築してきた高度集積培養系を安定に維持するとともに、新たに取得した海底地下試料を対象に、13C標識メタンを用いた高感度SIPを実施した。高感度SIPの結果、嫌気的メタン酸化アーキア群(ANME-1、-2)によるメタン由来13Cの取り込みを証明した。さらに、これらのアーキア群は海底深度や地球化学的パラメーターに依存して分布し、それぞれが特徴的な生態的ニッチを形成していることが強く示唆された。
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