研究課題/領域番号 |
19H04245
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
熊本 雄一郎 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(海洋観測研究センター), 主任研究員 (70359157)
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研究分担者 |
千手 智晴 九州大学, 応用力学研究所, 准教授 (60335982)
田副 博文 弘前大学, 被ばく医療総合研究所, 准教授 (60447381)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 日本海 / セシウム137 / ストロンチウム90 / 底層水 / 大気中核実験 / 福島第一原子力発電所事故 |
研究実績の概要 |
日本海は4つの浅い海峡によって周辺海域と隔てられた閉鎖性の強い縁辺海であるが、2000mより深い底層まで到達する大洋型の鉛直循環が存在する。底層水の形成(表面水の沈み込み)はロシア・ウラジオストク沖における冬季の表面水冷却によることがわかっているが、温暖化の進行に伴い2000年代以降はその形成が停滞している可能性が指摘されている。1950-60年代の大気中核実験によって海洋表面に沈着したセシウム137とストロンチウム90は、表面水の沈み込みによって底層に輸送されるため、底層水形成の時間変化を捉えるための有効な化学トレーサとなる。本研究は、日本海における海洋観測によって底層水を含む日本海の全水柱におけるセシウム137とストロンチウム90濃度の鉛直分布を測定し、新たに得られる結果から過去データの矛盾を解消し、日本海底層水の形成を定量的に議論することを目的とする。研究初年度の2019年度は、2回の観測航海に乗船参加し、それぞれ日本海の日本海盆および大和海盆において、セシウム137とストロンチウム90分析用の海水試料を鉛直的に採水した。すでにそれら2点で得られた試料の測定は完了している。2020年度は、新型コロナ禍の影響によって、予定していた日本海における海水試料の採取を実施することができなかった。その代わりに2018年に採取された試料中のセシウム137を測定した。それらの結果は、2020年度日本海洋学会秋季大会において発表した。2020-2021年冬期は、約20年ぶりの厳冬であった。そのためロシア・ウラジオストク沖で新たな底層水が形成された可能性がある。本研究の最終年度である2021年度も日本海において海水試料の採取を予定しており、セシウム137とストロンチウム90の測定データからこの仮説を検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年7月に実施された北海道大学水産学部附属練習船「おしょろ丸」第73-3次航海に乗船し、日本海日本海盆の1観測点(Station GM1、北緯41度21分、東経137度20分、水深3630m)において海水試料を採取した。また、2019年10月に実施された長崎大学水産部附属練習船「長崎丸」第40-2次航海に乗船し、日本海大和海盆の1観測点(Station PM5、北緯37度42分、東経134度43分、水深2910m)においても海水試料を採取した。それらの海水試料中の溶存セシウム137を、リンモリブデン酸アンモニウム(AMP)を使って濃縮した。AMPに濃縮されたセシウム137濃度は、金沢大学環日本海域環境研究センターの低バックグランドゲルマニウム半導体検出器を用いて測定した。一方、セシウム137を濃縮視し終わった後の残留海水中のストロンチウム90を、シュウ酸塩共沈法によって濃縮した。その後、ストロンチウム90と放射平衡になったイットリウム90を吸着樹脂(DGA Resin)を用いて単離した。ベータ線計測器で測定されたその濃度から、間接的にストロンチウム90の濃度を決定した。2020年度に計画されていた日本海における海水試料の採取は、新型コロナ禍の影響で実施することができなかった。そこで、過去に日本海において実施された航海で採取された海水中の放射性セシウム濃度を測定することで、2019年の測定結果を補うことにした。具体的には、2018年10月の「長崎丸」第17次航海において、日本海大和海盆のStation PM5で採取された海水中のセシウム137を、上記と同様の方法で測定した。その結果、上記2019年の測定結果とほぼ一致する測定結果を得ることができた。それらの結果を、2020年度日本海洋学会秋季大会で発表した。以上から、本研究計画はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2020-2021年冬季、日本列島を含む環日本海域は厳冬であった。ロシア・ウラジオストク市における気象は、ちょうど20年前の2000-2001年冬季と同程度に厳しかったことがわかっている。2001年はウラジオストク沖で新たな底層水の形成が観測された年であるが、この2021年も20年ぶりに底層水が形成された可能性が高い。それを本観測研究で捉えることができれば、極めて貴重なデータを取得することができる。2020年度に引き続き2021年度も、日本海において海水試料を採取する計画があるが、新型コロナ禍の影響のため、どおり実施できるかどうか不透明な状況である。具体的には、2021年の7月に予定されている「おしょろ丸」航海において、東部日本海盆の1点においてセシウム137とストロンチウム90測定用海水試料を採取する予定である。それが予定通り実施できない場合に備えて、「長崎丸」航海および海洋研究開発機構の「新青丸」航海において、海水試料の採取が可能かどうかを検討している。また、気象庁は毎年秋季に日本海において定期観測航海を実施しているので、気象庁観測航海における海水試料の採取についても相談している。これら観測準備と並行して、これまでに得られているセシウム137とストロンチウム90濃度のデータの品質管理を行う。その後、それらの日本海底層水中の濃度変化について定量的な議論をとりまとめ、2021年度秋季の学会(日本海洋学会、または日本地球化学会)で、その成果を発表する。また、上述の2020年度日本海洋学会秋季大会において口頭発表した内容の一部を、雑誌(「月刊海洋」)の特集号記事として取りまとめることを予定している。これは、本研究を立案するにあたり過去の研究をレビューした結果を、日本語でまとめるものである。それらを踏まえて、最終的には専門分野の国際誌に論文を投稿する。
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