研究課題
地球温暖化などの気候変動が海洋生物へ与える影響を明らかにするうえで、海洋生物の回遊経路の解明は不可欠である。しかし、海洋生物の中でも特に魚類は、行動範囲が広いため、移動行動の観察は難しく、さまざまな解析手法が試みられているものの、定常的な回遊経路でさえ不明な点がまだ多い。そこで本研究では、「脊椎骨のアミノ酸窒素同位体比測定」から、対象とする魚が回遊中に食べた餌の窒素同位体比履歴を復元する。「海洋窒素同位体モデル」から再現した窒素同位体比の空間分布と、「魚類成長-回遊モデル」から推定した回遊経路からも、対象とする魚が回遊中に食べた餌の窒素同位体比履歴を推定する。両者の比較から回遊経路を絞り込む。植物プランクトンの窒素同位体比測定について本年度は、分取手法の最適化を行った。具体的には、海産植物プランクトンの培養株を用いて、ソートと窒素同位体比測定を行い、保存・ソート・ろ過などについての各種条件を検討した。窒素同位体比分布の再現について本年度は、窒素同位体比データアーカイブの作成を行った。これまでに申請者らが行ってきた同位体測定の結果や文献から、海水中の硝酸の窒素同位体比を収集し、モデルと比較可能な形式へ変換し、窒素同位体比データアーカイブを構築した。また、データ数の少ないインド洋の測定結果を追加するため、みらいの航海(MR15-05 Leg1)と白鳳丸の航海(KH-18-6 Leg2・Leg3)で採取した東部インド洋及びベンガル湾の海水について、硝酸の窒素同位体比測定を行った。脊椎骨のアミノ酸窒素同位体比測定について本年度は、同位体測定の専門知識を有する研究協力者を雇用し、マサバの脊椎骨のアミノ酸同位体測定を行った。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、同位体測定の専門知識を有する研究協力者を雇用でき、脊椎骨のアミノ酸同位体測定が順調に行われている。
植物プランクトンの窒素同位体比測定について来年度は、環境試料への適用を行う。具体的には、外洋域で採取した懸濁粒子を用いて、ソートと窒素同位体比測定を行い、保存・ソート・ろ過などについての各種条件を検討する。窒素同位体比分布の再現については、前年度に作成した窒素同位体比データアーカイブの更新を継続するとともに、全球窒素同位体モデルの構築を開始する。また、前年度に集中的に測定したインド洋海域の窒素循環の解析を行う。脊椎骨のアミノ酸窒素同位体比測定については、サケの選定と調達を行う。
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Ecology Letters
巻: 23(5) ページ: 881 -890
10.1111/ele.13496