研究課題/領域番号 |
19H04248
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
荻野 慎也 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(大気海洋相互作用研究プログラム), 主任研究員 (80324937)
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研究分担者 |
那須野 智江 国立研究開発法人海洋研究開発機構, シームレス環境予測研究分野, グループリーダー (20358766)
森 修一 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 大気海洋相互作用研究分野, プログラム長代理 (00344309)
山中 大学 総合地球環境学研究所, 研究部, 研究員 (30183982)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 沿岸降水 / 水循環 / NICAM |
研究実績の概要 |
地球の気候とその変動に影響を与える水の循環はこれまで海陸2領域間の水輸送として理解されてきた。それに対し研究代表者らは、沿岸域を第3の領域として区別する水循環像を提唱している。沿岸域では降水が卓越し、海から陸へ運ばれる水蒸気の半分が除去されている。そこでの大気加熱は全球の潜熱加熱の20%を占め、気候の形成に影響を与えていると考えられるが、その卓越メカニズムは理解されていない。本研究では全球雲解像モデルNICAMを用いて、何が沿岸降水とその除湿作用をもたらしているかを明らかにするため以下の2つを行なう。(1) 新たな水循環像の確立: 海から陸への水蒸気輸送において平均場、年周期のモンスーン、日周期の海陸風、それ以外、のそれぞれが全体の輸送量に対して、どこでどの程度寄与しているかを定量的に明らかにする。(2) 水循環の将来予測: 将来の気候の下での沿岸降水の挙動を記述し、将来気候における熱的強制力の大きさを定量的に求める。それとともに、全球の海陸水循環における沿岸域の働きが現在気候からどのように変化するかを明らかにする。
本年度はNICAMによる現在気候の再現実験および将来気候の予測実験を行なった。また、実験結果の解析を行うために、計算環境と解析環境の整備を行った。時間・水平方向ともに高分解能のデータを保存、処理するために高速で大容量のストレージシステムとワークステーションを整備した。また、モデル出力の扱いに優れ付属のライブラリにより統計解析を効率的に行うことの可能なデータ解析・可視化ソフトウェアIDLを導入した。NICAMの実験結果からは現実的な沿岸降水の描像が見出されており、今後のデータ解析により上述の目的を達成するための準備は整った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者と分担者との綿密な打ち合わせのもとに、気候学的な計算結果を高時間分解能で出力する設定でNICAMによる計算を実施することで、実験は当初の予定通りに完了し、当初期待した結果を得ることができた。ただし、その結果の学会等での発表は計画通りには進まなかった。計算結果には問題はないので、次年度以降に順次成果を公表する計画である。
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今後の研究の推進方策 |
海から陸への水蒸気輸送がどのような現象によってもたらされているか、具体的には、平均場、年周期のモンスーン、日周期の海陸風、それ以外、のそれぞれが全体の輸送量に対して、どこでどの程度寄与しているかを定量的に明らかにすることを目的として、現在気候における各現象の寄与の解析を行う。初年度に得られた1時間間隔の現在気候実験データを用いて年間の陸向き水蒸気輸送の総量を求める。具体的には、水蒸気量と風速の積から水蒸気フラックスを計算し、その鉛直積算および時間方向に1年間の積算を行う。得られたフラックスの陸向き成分を海岸線からの距離の関数として整理する。この年間総輸送量がどのような現象により担われているかを定量化する。ついで、水蒸気量と風速のデータを周波数展開し、平均場、年周期 (モンスーン)、日周期 (海陸風)、それ以外 (季節内変動など) に成分に分解する。それぞれの成分について上述と同じ解析を行うことにより、各成分の現象によって担われている陸向き水蒸気輸送量を算出する。結果を全輸送量と比較することで、それぞれの成分が海岸線からの距離に対してどこでどれだけの寄与をしているかを明らかにする。特に沿岸部での脱水に関与している現象が何かを明らかにするとともに、現象の力学と結びつけることで除湿のメカニズムを明らかにする。
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