研究課題
バイオマスや化石燃料の燃焼に伴い生成する燃焼起源有機物 (PyOM) の大部分は、生物学的反応性に乏しい超難分解性成分であり、長期的な炭素循環を制御しうる。近年、地球表層における最大級の還元型炭素プールである海洋溶存有機物中にもPyOMが存在する事が示された。しかし、海洋溶存PyOMの時空間分布に関する情報は極めて乏しく、その動態は不明である。申請者は、これまでに溶存PyOMの太平洋南北断面分布を明らかにし、深層に存在する溶存PyOMは沈降粒子に吸着され水柱から除去される、との仮説を立てた。本研究では、ベーリング海や南極海などの更に広範な海域における溶存PyOMの空間分布、また溶存PyOMのサイズ分布、を明らかにする事により、海洋深層における溶存PyOMの除去や輸送過程を解明する事を目指す。2020年度は、2019年度に採取された南太平洋における溶存PyOMおよび海洋化学パラメータの分布を明らかにした。ベーリング海および西部北太平洋亜寒帯域における溶存PyOMの分布パターンを解析した結果、溶存PyOM濃度は表層で高く、水深の増加に対して減少する傾向がみられた。表層における溶存PyOM濃度は海域の違いによる系統的な違いは見られなかった。一方、中層における溶存PyOM濃度は、ブッソル海峡 > ベーリング海およびカムチャッカ海峡 > 西部亜寒帯循環域の順であり、オホーツク海陸棚堆積物に堆積した燃焼起源有機物が溶存化し、高密度陸棚水に取り込まれ、中層水としてブッソル海峡に輸送される事が考えられた。また、ベーリング海の陸棚斜面もDBCの供給源である事が示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
2020年度は、当初の計画を前倒し、溶存PyOMのサイズ分布を明らかにする予備実験を開始しており、当初の計画以上に研究は進展していると言える。
2021年度は、分析が終了した太平洋全域における溶存PyOM濃度を決定する要因の解明を目指し、データ解析を継続するとともに、本研究の主要課題である海洋深層における溶存PyOMの除去過程に関して明らかとなった事をまとめ、論文を執筆する。また、溶存PyOMのサイズ分布を明らかにする。
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Progress in Oceanography
巻: 191 ページ: 102510
10.1016/j.pocean.2020.102510
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Chemosphere
巻: 271 ページ: 129824
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https://pablos.ees.hokudai.ac.jp/yamashita/