バイオマスや化石燃料の燃焼に伴い生成する燃焼起源有機物 (PyOM) の大部分は、生物学的反応性に乏しい超難分解性成分であり、長期的な炭素循環を制御しうる。近年、地球表層における最大級の還元型炭素プールである海洋溶存有機物中にもPyOMが存在する事が示された。しかし、海洋溶存PyOMの時空間分布に関する情報は極めて乏しく、その動態は不明である。申請者は、これまでに溶存PyOMの太平洋南北断面分布を明らかにし、深層に存在する溶存PyOMは沈降粒子に吸着され水柱から除去される、との仮説を立てた。本研究では、ベーリング海や南極海などの更に広範な海域における溶存PyOMの空間分布、また溶存PyOMのサイズ分布、を明らかにする事により、海洋深層における溶存PyOMの除去や輸送過程を解明する事を目指す。 2021年度は、太平洋全域における溶存PyOM分布を解析し、溶存PyOMは沈降粒子に吸着され除去される事を示し、その全球的な除去フラックスを0.040ー0.085 Pg/yrと見積もった。この除去フラックスは、河川と大気から供給される溶存PyOMのフラックスよりも大きく、海洋には溶存PyOMのミッシングソースが存在する事を示した。なお、これらの研究成果はNature Communicationsに掲載された。 また、河川水および海水中の溶存PyOMのサイズ分布を明らかにし、溶存PyOMは主に分子量3000以下の画分に存在する事を示した。河川水中のPyOMに関しても、海洋PyOMの起源の一つとして再注目し、その輸送過程や沿岸域における挙動に関する解析を進めた。その解析に関連した成果は2本の論文としてFrontiers in Earth Scienceに掲載された。
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