研究課題/領域番号 |
19H04254
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中川 書子 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (70360899)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 大気硝酸濃度 / 河川 / 脱窒速度 / 硝化速度 / 同化速度 / 三酸素同位体組成 |
研究実績の概要 |
本研究では、河川水に溶存する硝酸の濃度と三酸素同位体組成から算出される大気硝酸濃度に着目し、この時空間変化を追跡することによって、河川環境下における脱窒速度を中心とした窒素循環速度を見積もる新手法を開発し、検証した。対象とした河川は、滋賀県にある琵琶湖の流入河川の1つである野洲川および愛知県名古屋市を流れる都市河川である天白川である。初年度は、野洲川および天白川において、河川の流下に伴う総硝酸濃度と大気硝酸濃度の変化を求め、総除去 (同化+脱窒) 速度と総供給 (硝化+系外流入) 速度を定量化することに成功した。ただし、系外からの硝酸の直接流入が大きな影響を与えていないことが明らかになった野洲川では,観測の時間分解能が低くても問題無く窒素循環速度を定量することが出来たのに対し,都市河川である天白川の場合、浄化センターからの硝酸の流入の影響によって河川水中の硝酸濃度が大きく時間変動することが分り、それを考慮した観測を行う必要が出てきた。そこで2年目は、時間分解能を上げた天白川の観測を中心に行った。観測は、7月、8月、10月、12月、3月の5回行った。支流などの系外流入が無視できる観測区間を選び、その入口と出口において2時間毎に24時間観測を行った。2地点間の大気硝酸濃度の差から硝酸除去速度を見積もり、これと全硝酸濃度の差から硝化速度を見積もった。夜間の硝酸除去速度から脱窒速度を昼夜の硝酸除去速度の差から同化速度を見積もった。その結果、各速度とも夏季に大きく、冬季に小さくなる季節変化が見られた。本研究で得られた脱窒速度を用いて、海洋に対する窒素負荷軽減量を推定したところ、天白川から海洋へ輸送される窒素の約30%が河川系内における脱窒によって抑制されていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目標は、大気硝酸の流下に伴う濃度変化を指標に用いた河川系内の脱窒速度も含んだ窒素循環速度定量法の開発である。2年目は、人間活動の影響の大きい都市河川である天白川(愛知県)を研究対象とした。都市河川である天白川の場合、浄化センターからの硝酸の流入の影響によって河川水中の硝酸濃度が大きく時間変動することが分り、それを考慮した観測を行う必要が出てきたからである。そこで2年目は、時間分解能を上げた観測を行うことによって、①同化や脱窒、硝化といった各窒素循環速度が日周変動などの時間変動をしている場合は、求めた速度は不正確になる、②支流などからの系外流入の影響を無視している、③脱窒と同化を区別できない、といった問題点を解消することが出来た。本研究で開発した新手法を用いることで、任意の都市河川で現場環境下における脱窒・同化・硝化速度個別定量が実現できるようになり、当初の目標は十分に達成されたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
3年目は、昨年度に引き続き人間活動の影響の大きい都市河川(愛知県名古屋市)を研究対象とする他、大気からの窒素負荷量が大きいことが問題となっている森林域(岐阜県伊自良湖集水域)の河川についても調査する。対象区間は、系外からの流入、すなわち支流の合流や下水等の流入が無視できる区間を選定する。 大気からの沈着が無視できる晴天時(ただし、河川水中の大気硝酸濃度が検出可能な降雨後数日以内とする)に、対象区間の最上流地点および最下流地点において同時進行で採取し、それぞれについて硝酸濃度と三酸素同位体組成を定量し、河川水中に含まれる大気硝酸濃度の時間変化を算出する。また、各点で平均流速を実測し、対象区間内を通過する平均所要時間を算出する。求められた大気硝酸濃度の時空間変化から、対象区間内を流下する過程で減少した大気硝酸濃度を算出し、大気硝酸の総除去速度を求める。水面への直接的な大気沈着は補正するが、晴天時なら基本的には無視できる。昼間の大気硝酸除去速度は、脱窒速度と同化速度の和である。これに対し、夜間の大気硝酸除去は、大部分が脱窒に依ると考えられるので、ここから脱窒の反応速度定数を算出する。本研究で提案する「大気硝酸追跡法」で求めた脱窒・同化速度は、従来の「窒素同位体濃縮硝酸添加培養法」より求めた脱窒・同化速度と比較し、矛盾がないか検証する。培養法を実施する地点は、大気硝酸追跡法を実施する対象区間の最上流地点 および最下流地点の間に用意する。各河川観測は、数ヶ月に1回実施する。本研究を通じて、地形や生態系の変化等が河川水中の脱窒速度に与える影響を定量的に評価する。また、それらの季節変化や、それらを制御する因子を考察する。研究成果を取りまとめ、学会発表を行う。
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