研究課題
本研究では,年縞を保存する湖成層であるモンゴルの白亜系シネフダグ層を対象として,白亜紀「温室期」の気候変動を数年~数十年の時間スケールで詳細に復元し,極端な温暖化が進行した後の気候安定性を考察することを目的とする。代表者らのこれまでの研究により,現在よりもCO2濃度が高く,極域氷床の存在しない白亜紀「温室期」にも,「氷期」に類似した千年スケールの急激な気候変化が起こっていたことが明らかになった。そこで本研究では,モンゴルの年縞湖成層(シネフダグ層)を対象に,以下5つの研究手法を行うことにより,白亜紀「温室期」の急激な気候変化の実態解明を試みている。①μXRFコアスキャナー(ITRAX)を用いた無機元素組成変動の解析,②蛍光顕微鏡による夏季藻類生産量の復元,③微小カルサイト層の微量酸素同位体比測定による湖水質変動の復元,④古細菌バイオマーカーに基づく古水温指標(TEX86)の解析,⑤無機元素組成・粘土鉱物組成の因子解析による気温と降水量因子の解析。本年度はまず①と②の研究を進め,約30万年区間に対して約5年の解像度で主要・微量元素組成分析を行い,十年~千年スケールの古環境変動を詳細に復元した。また③の手法構築を分担者の石村と共同で開始し,微小カルサイトの酸素・炭素同位体比から,年スケールの湖生物生産量や蒸発量/降水量の変動を復元可能であることが明らかになった。一方,④の古細菌バイオマーカーに基づく古水温指標(TEX86)の解析は困難であることがわかった。本研究の成果の一部は,国際誌論文2編と国内誌論文1編として公表した他,国際誌論文1編を投稿中である。また国内学会で8件の,国際学会で2件の発表を行った。また研究対象のモンゴル白亜系湖成層に関する論文(Hasegawa et al., 2018, Island Arc)が日本地質学会2019年論文賞を受賞した。
2: おおむね順調に進展している
本年度はまず,①と②の研究を代表者が中心になって進めた。μXRFコアスキャナーを用いて,シネフダグ層のコア試料(CSH01)の30m区間(約30万年区間)に対して0.5mm解像度(約5年の解像度)で主要・微量元素組成分析を行い,十年~千年スケールの古環境変動を詳細に復元した。また蛍光顕微鏡を用いて年縞層厚を解析し,堆積速度変化を補正した時系列変動に転換した。本年度はまた,③の研究の手法構築を分担者の石村と共同で開始した。白亜紀年縞の層厚は数十μmと極微小なため,微量炭酸塩安定同位体比測定システムと高精度マイクロミルを用いることで,1億年前の湖成年縞中の微小カルサイトからの酸素・炭素同位体比測定を試みた。その結果,微小カルサイトの酸素・炭素同位体比から,年スケールの湖生物生産量や蒸発量/降水量の変動を復元可能であることが明らかになった。また,分担者の山本が④の古細菌バイオマーカー(GDGTs)の測定を行った。しかし,測定した試料からはGDGTsが検出されず,古細菌バイオマーカーを用いた古水温指標(TEX86)の解析は困難であることがわかった。
今後は,昨年度に引き続き①と②の研究を代表者が中心になって継続する。特に,μXRFコアスキャナーを用いて,より長期間(約60万年区間)の古環境変動データの解析を進め,千年スケールの変動と地球軌道要素変動との関係性を探る予定である。また分担者の石村と共同で行う③に関しては、昨年度の施行で有効性が確認されたので、本年度は分析数を増やして解析を進める。分担者の山本が進める④に関しては、シネフダグ層のコア試料からのTEX86分析が困難と判明したため、新規の古水温指標として最近提唱されたHG古水温指標(Klages et al. 2020, Nature)が同試料に適用可能かの検討を進める。⑤については分担者の太田と共同で、現生や第四紀の湖水質観測記録や堆積物の元素組成データとの比較検討を行う。以上の研究を推進し、白亜紀「温室期」の気温と降水量の変動を超高時間分解能(数年~数十年解像度)で復元し,現在よりも大気CO2濃度が高く,極域氷床が存在しない「温室期」の気候モードにおける急激な気候変化の実態や,発生メカニズムの解明を目指す。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 2件)
名古屋大学博物館報告
巻: 35 ページ: p.1-12
Scientific Reports
巻: 9 ページ: p.1-8
10.1038/s41598-019-52862-7
Geophysical Research Letters
巻: 46 ページ: 13961~13971
10.1029/2019GL084726