研究課題/領域番号 |
19H04263
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
塩崎 拓平 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (90569849)
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研究分担者 |
浜崎 恒二 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (80277871)
遠藤 寿 京都大学, 化学研究所, 助教 (80795055)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 南極海 / 窒素固定 / UCYN-A |
研究実績の概要 |
本研究では南極海で広く窒素固定の観測を実施し、南極海沿岸域の海氷域で窒素固定が活発に行われていることを明らかにした。 観測は第60次南極地域観測隊夏隊の活動期間(2018年12月から2019年3月)に南極観測船「しらせ」と南極大陸沿岸における実地調査によって行われた。窒素固定は15NでラベルされたN2ガスを海水に加え、一定期間培養した後、粒子態窒素中の15N/14Nの比を測定することで調べることができる。窒素固定は南極海沿岸域の定着氷域と氷縁域において検出された。氷縁域の測点では熱帯・亜熱帯域沿岸域で見られるような非常に高い窒素固定活性(44.4nmol N L-1 d-1)が検出された。また南極海沿岸域ではすべての測点でニトロゲナーゼをコードする遺伝子であるnifH遺伝子が検出された。nifH遺伝子の配列を詳しく調べた結果、他の海域で検出されていた窒素固定生物が南極海でも検出された。中でも興味深かったのはUCYN-Aと呼ばれるシアノバクテリアのnifH遺伝子が検出されたことである。UCYN-Aは亜熱帯を中心に生息する代表的な窒素固定生物のうちの一つとして知られている。UCYN-Aはいくつか亜種がいることが分かっているが、南極海で見つかったのはそのうち最も主要な種とnifH遺伝子の配列が完全一致した。また窒素固定の活性が検出された観測で、発現したnifH遺伝子の組成を調べてみると、UCYN-AのnifH遺伝子が最も多くなっていた。つまり南極海の窒素固定は主にUCYN-Aによって行われていることが示唆された。 南極海での窒素固定が検出されたことで、海洋窒素固定はもはや熱帯・亜熱帯海域だけのローカルなプロセスではなく、全球規模で行われているプロセスであることが示された。また南極海ではUCYN-Aが主要な窒素固定者であることが示唆された。UCYN-Aは近年北極海にも存在することが明らかになっており、全球規模の窒素固定を理解する上で重要な生物であると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に予定していた南極海において採取されたサンプルの分析が完了するとともに、その成果を論文としてまとめることができた。また本年度は亜熱帯海域で実施された観測航海にも参加し、窒素固定活性の測定を実施すると共に、メタゲノム解析用のDNAサンプルも採取することができた。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は北極海での航海が予定されており、その航海で窒素固定活性の測定を実施すると共に、メタゲノム解析用のDNAサンプルを採取する予定である。これまでの南極海と亜熱帯のサンプルに加え、北極海のサンプルが手に入ることで全球規模でサンプルが手に入ることとなり、包括的な解析が可能となると考えられる。
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