研究課題
本研究では、ヌクレオチド除去修復(nucleotide excision repair; NER)のより高次な調節機構の解明に向けて、従来の断片的な知見を時空間的に統合された理解へと変換させること、またそこに関わる未知のNER関連因子を同定することを目的として、ケミカルバイオロジーを利用した2つのアプローチから研究を進めている。(1)フォワードケミカルジェノミクスのアプローチまず、これまでに同定した3種類のNER阻害物質の作用メカニズムについて以下の解析を行った。先行するA6に関しては、ERCC1の分解誘導過程で起きるユビキチン化反応について一過性発現系も利用して詳しく調べるとともに、以前同定したE3リガーゼとERCC1及びXPFとの相互作用を解析し、A6の影響についても検討した。また、パツリンとシコニンに関しては、TFIIHのDNA損傷部位へのリクルートが阻害されることから、XPCとTFIIHサブユニットとの相互作用を詳しく調べた結果、XPCとp62の相互作用を高めることがわかった。一方、THIIHのXPBサブユニットの分解を誘導してNERを阻害するスピロノラクトン(Alekseev et al., 2014, Ueda et al., 2019)の作用メカニズムに関しては、我々が同定した分解誘導に重要なSer90の役割について、リン酸化抗体を用いた解析を中心に行った。(2)「DNA損傷プローブ」を利用したアプローチこれまでに作製したDNA損傷プローブによるNER中間複合体の単離が難航したため、バックアップとして近位依存性標識法を利用したアプローチを導入し、セットアップが完了した。また、この方法を用いてTHIIHのサブユニットの標識・単離ができたことから、NER中間複合体の単離が可能になったと判断され、(1)のNER阻害物質を処理した際の影響についても検討した。
2: おおむね順調に進展している
(1)のアプローチについては、各化合物の作用メカニズムの解析が順調に進展しており、最終年度末までに主要部分を明らかできると考えている。一方、(2)のアプローチについては、当初の計画を変更して新たに導入したアプローチがうまく進展しており、NER中間複合体が単離できたと判断される結果も得られていることから、うまく移行できたと考えている。
(1)最終年度は、4種類のNER阻害化合物すべてについて、作用メカニズムの主要部分を明らかにするべく全力をあげる。特に、NER因子の分解を誘導するA6とスピロノラクトンについては、その分解誘導メカニズムに類似性が見られることから、細胞内のNER因子の量的な調節機構につながることも期待しつつ、これらの化合物を(2)のアプローチや合成致死を利用したDDRネットワークの解析にも応用していきたいと考えている。(2)今年度、確立した近位依存性標識法を利用したアプローチを用いて、様々な段階のNER中間複合体を単離し、既知NER因子の翻訳後修飾状態や未知NER因子の同定に向けて、網羅的な解析を推進していく予定である。
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Asian Pac. J. Allergy Immunol.
巻: in press ページ: 未定
10.12932/AP-270820-0949
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.
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10.1073/pnas.1920165117
http://www.p.kanazawa-u.ac.jp/~iden/