研究課題
細胞内にできるDNA切断は、5’リン酸基、3’水酸基がついた「きれい」な傷ではなく、DNA切断端に塩基損傷やトポイソメラーゼが付加した、いわゆる「汚い」傷である。放射線によるDNA切断においても、切断端周辺の塩基が損傷している。こうした「汚い」傷は、修復酵素の基質にならず、修復が困難な難治性のDNA切断である。申請者は、トポイソメラーゼ2型(Top2)酵素が作る難治性DNA切断(端にTop2が共有結合したDNA切断)の修復にMRE11ヌクレアーゼが極めて重要な働きをしていることを見つけた。このMRE11の機能は、Top2によるDNA切断修復のみならず、様々な難治性DNA切断に共通した機能である可能性がある。2019年度は、この仮説の検証とMRE11ヌクレアーゼを制御する因子の同定を行い、UBC13とRAP80を単離した。UBC13は、ユビキチンE2酵素であり、難治性DNA切断部位に集合した基質分子をユビキチン化することにより、それを端緒に「汚い」難治性DNA切断が「きれいな」切断に変換するために必要な過程であるという仮説を立てている。この仮説を検証するために、現在、これらの遺伝子破壊細胞の樹立を行っており、難治性DNA切断修復の分子メカニズム解明を目指した研究が、計画通り進行している。本研究は、トポイソメラーゼ1やトポイソメラーゼ2を標的分子とする抗がん剤や放射線が発生させる難治性DNA切断修復の分子機構を明らかする。この分子機構の解明により、DNA切断を発生させる抗がん剤や放射線の増感剤開発につながる。
1: 当初の計画以上に進展している
本課題の目的は、難治性DNA切断は、切断端が5’リン酸基、3’水酸基がついた「きれい」な傷へと変換されるために必要な分子とメカニズムを解明することにある。2019年度に予定通り、難治性DNA切断に必要な因子を同定することができた。現在、CRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いて、これらの因子の遺伝子破壊細胞を樹立している。また難治性DNA切断修復を解析するにあたり、対象実験として必要となる細胞作製も順調に進んでいる。この細胞には、制限酵素AsiSIにエストロゲン受容体(ER)を融合させたAsiSI-ERタンパク質を発現させ、タモキシフェン処理により一過的に核移行させることで、染色体DNAに切断を導入する。この実験系の確立が予想以上に進行している。E2ユビキチン化酵素であるUBC13と協調して機能するE3リガーゼ酵素を同定するため、候補遺伝子の遺伝子破壊も進行中である。
本年度は、UBC13とRAP80が、BRCA1-MRE11経路にどのように関わるかの分子機構を明らかにする。UBC13が、ユビキチンE2リガーゼ活性を持っていることを踏まえ、UBC13依存的なユビキチン化経路が、「汚い」傷を「きれい」な傷へ変換する反応にどう関わるかを解析する。MRE11ヌクレアーゼと別経路で機能するTDP2遺伝子破壊とUBC13やRAP80の二重欠損細胞を作成し、それぞれの単独変異の表現型と比較する。上述の計画では、均一な「汚い」傷を効率よく作ることができる、トポイソメラーゼ2型酵素の阻害剤、エトポシドを使用して解析を行う。UBC13とRAP 80の機能解析が進み、分子機構が明らかになった後で、これらの分子機構がエトポシドによる「汚い」傷修復だけでなく、様々な難治性DNA切断修復に当てはまる経路であることを明らかにする。この目的のために、「きれい」な傷を作る制限酵素と「汚い」傷を作る放射線の修復を比較する。UBC13やRAP80が「汚い」傷を「きれい」な傷に変換する経路に関与していれば、それらの遺伝子欠損細胞では制限酵素による「きれい」な傷修復は、野生型細胞と同程度であるが、放射線による「汚い」傷修復は、欠損細胞では野生型細胞より遅れるはずである。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 3件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件)
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