研究課題/領域番号 |
19H04267
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
笹沼 博之 京都大学, 医学研究科, 准教授 (00531691)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 放射線 / DNA損傷 / 付加体 / トポイソメラーゼ / ユビキチン |
研究実績の概要 |
放射線によって発生したDNA切断の末端の形状に着目し、その形状がDNA切断修復に与える影響を解析し、その分子メカニズムを明らかにすることを目的としている。細胞内に発生するDNA切断端には、制限酵素による切断と異なり、切断付近の塩基が損傷を受けていたり、切断端にタンパク質が共有結合している。申請者は、本課題開始時に、こうした付加体の除去に重要な役割を果たすMRE11ヌクレアーゼを見つけた。2020年度は、前年度で見つけたMRE11ヌクレアーゼ制御因子、UBC13を中心とした解析を行なった。UBC13を発現抑制させた細胞では、放射線によるDNA切断あるいはタンパク質が共有結合したDNA切断の修復が大幅に遅延する、一方で、制限酵素によるDNA切断修復の遅延は見られなかった。このことは、ユビキチンE2リガーゼUBC13が関与するユビキチン経路がDNA切断端からの付加体の除去に重要な働きをしていることを示唆した。さらに本年度は、UBC13と協調して機能するE3リガーゼの探索も行い、複数のE3リガーゼが重複して機能していることを見つけた。さらにUBC13依存的なユビキチン鎖を認識するメディエーター因子として、ユビキチン鎖を認識する機能ドメインを持つRAP80を見つけた。RAP80を欠損させるとUBC13発現抑制細胞と同程度に、放射線による切断修復遅延が観察された。このRAP80は、BRCA1と結合することが知られていたため、RAP80遺伝子欠損細胞で、BRCA1やMRE11の切断端への集積を間接蛍光抗体法により調べた。その結果、UBC13発現減弱細胞、RAP80遺伝子欠損細胞ともに、MRE11の切断端への集積が低下しただけでなく、BRCA1とMRE11間の相互作用が劇的に低下した。昨年度は、以上の結果をまとめて論文発表することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本課題の目的は、放射線等で生じたゲノム切断の切断端に付く付加体を除去するユビキチン経路の解明である。申請者は、放射線によるDNA切断と制限酵素によるDNA切断の修復を解析できるアッセイ系を構築し、切断端の形状、すなわち切断端の付加体の除去に関わる因子を解析できるようにした。放射線によって発生する付加体がDNA切断修復に与える影響に関しては、本課題で構築したアッセイ系を使うことによって、付加体除去反応と相同組換え/非相同末端結合修復反応を区別して議論することができるようになった。付加体除去反応と相同組換え/非相同末端結合修復反応を区別して研究することは、放射線生物学研究分野において重要な意義がある。申請者は、付加体の除去反応研究において重要な機能を担う因子を、2016年にMRE11、2018年にBRCA1を報告してきた。これらの知見をもとに2020年度は、新しいアッセイ系を使ってMRE11の制御因子としてUBC13をはじめとするユビキチン化経路を明らかにした。これらの成果をまとめて論文発表を行うことができた。計画された研究課題はほとんど達成できたと考えて良い。本課題に関係した付加体除去機構の分子メカニズムを明らかにするために、さらなる研究をスタートさせている。
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今後の研究の推進方策 |
放射線によって発生する付加体の除去についての研究をさらに発展させ、タンパク質付加体(タンパク質がDNA切断端に共有結合したもの)の除去機構について解析を進める。UBC13と協調して機能するE3リガーゼの探索により、放射線によって発生する付加体の除去に複数のE3リガーゼが重複して機能していることを見つけた。今後は、これらの複数のE3リガーゼがタンパク質付加体における役割とその基質を明らかにする。特にDNA切断端に共有結合したトポイソメラーゼ2型(Top2)をつくるエトポシドは、効率よくタンパク質付加体を発生させることが可能であるため、タンパク質付加体解析にはエトポシドを使用する。一般的にタンパク質付加体は、切断端から速やかに分解され除去される必要がある。切断端に結合したTop2はエトポシド存在下で高度にユビキチン化されることが知られているが、分解におけるTop2ユビキチン化の意義は不明である。そこで今後は、Top2ユビキチン化がUBC13依存的なユビキチン化であるかどうか、またユビキチン化の意義について明らかにする。申請者が明らかにした放射線による付加体除去の分子機構に照らし合わせ、類似点と相違点を見つける。
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