DNA損傷の中でDNA二重鎖切断(DSB)は最も重篤な傷である。放射線によるDNA切断端は、5’末端にリン酸基と3’末端に水酸基を保持した切断ではない。そのためNHEJによる修復はできない。本研究は、放射線やTop2阻害剤であるエトポシドによって発生するDNA切断の端に付加したアダクトを除去するメカニズムについて研究した。研究代表者の研究により、切断端に付加したアダクトの除去に必要な因子として、Mre11とBRCA1を同定していた。本研究計画では、UBC13依存的なユビキチン化経路がアダクト除去を促進しているかどうかを研究した。細胞内で制限酵素を発現させることによって発生するDNA損傷と放射線によって発生させたDNA損傷の修復のキネティクスを比べた。UBC13遺伝子発現抑制細胞は、放射線照射時のMre11やBRCA1の切断部位への結合が低下したこと、gH2AXシグナル(DNA損傷マーカー)の消失が遅くなることがわかった。一方で、制限酵素の一過的発現によって発生する5’リン酸基と3’水酸基を有するDNA切断には、こうした表現型は見られなかった。このことから放射線によって発生したアダクトのついたDNA切断部位周辺分子がユビキチンされることが端緒となり、BRCA1の切断部位への集積が起こり、BRCA1がMRE11ヌクレアーゼのリクルートを促進するというモデルを提唱することができた。UBC13発現抑制細胞では、放射線曝露に応答したヒストンH2Aのユビキチン化が有意に低下していたことから、UBC13ユビキチンリガーゼの標的分子の一つとしてH2Aが考えられる。Mre11ヌクレアーゼの機能により切断端周辺のアダクトが除去されて5’リン酸基と3’水酸基が回復し修復がなされると考えられる。
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