研究課題
ヒト集団には放射線感受性の遺伝的個人差が存在しており、DNA修復遺伝子上の多型がその素因であることが示唆される。これを実証するには、候補配列をもつヒトに由来する細胞の放射線感受性を測定することが有用である。しかし、放射線感受性は生活習慣などの交絡因子に加えてヒト集団の多様な遺伝的背景の影響をうけるため、放射線感受性個人差を規定する遺伝素因の同定は困難である。これまでに、我々は、遺伝的背景が均一なヒト培養細胞株におけるゲノム編集技術を駆使して、放射線高感受性遺伝病の毛細血管拡張性運動失調症(A-T)の原因遺伝子ATMのヘテロ遺伝子変異が、放射線感受性個人差を規定する遺伝素因の一つであることを報告した。その後、放射線感受性個人を規定する新たな遺伝素因を探索する目的で、放射線感受性が高いヒトが集積する傾向にある卵巣がん患者の放射線照射後の微小核形成頻度の検討と全エクソーム解析を行った結果、ナイミーヘン症候群の原因遺伝子であるNBS1のI171V多型を遺伝素因の候補として同定した。疫学調査から、本多型が発がんリスクと相関することが知られているが、放射線感受性に対する影響については十分に調べられていない。そこで、CRISPR/Cas9システムと1本鎖DNAを用いてNBS1 I171V多型ノックインHCT116細胞株を樹立した。NBS1 I171V多型ノックイン細胞は、放射線照射後の微小核形成がコントロール(親株)細胞に比べて有意に亢進していることから、本多型が放射線感受性個人差を規定する遺伝素因の一つであることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
卵巣がん患者の全エクソーム解析により同定したナイミーヘン症候群の原因遺伝子NBS1のI171V多型の放射線照射後の微小核形成率を検討した結果、コントロール(親株)細胞に比べて有意に亢進していることから、本多型が放射線感受性個人差を規定する遺伝素因の一つである可能性が示唆された。このように遺伝素因の候補を一つ同定できたことから、研究はおおむね順調に進展していると考えられた。
放射線による発がん感受性の遺伝素因を証明するためには、モデル細胞の作成だけではなく、モデル動物を作成して発がん感受性を調べることが必要である。そこで、ゲノム編集技術を用いてNBS1のI171V多型をノックインしたマウスを作成して、放射線照射後の微小核形成頻度と発がん感受性を明らかにすることを計画している。1)ヒトの疫学調査と、2)ヒトモデル細胞の染色体解析、3)マウスモデルの発がん感受性解析、の結果を比較・検討することにより、放射線感受性個人差の統合的な理解が可能になると期待される。
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