研究課題/領域番号 |
19H04271
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
矢野 憲一 熊本大学, パルスパワー科学研究所, 教授 (70311230)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | DNAトポイソメラーゼ / DNA二重鎖切断 / DNA損傷 / ライブイメージング / DNAのねじれ |
研究実績の概要 |
DNAトポイソメラーゼII (DNA Topoisomerase II、Top2) はDNA鎖のねじれを解消する酵素であり、転写・複製・染色体分離といったDNAのねじれが起こりうる諸過程において重要な役割を担っている。DNA二重鎖切断 (DNA double-strand break, DSB) は放射線障害の重要な要因であり、その修復過程においてもDNAのねじれが生じうるが、Top2のDSB修復における役割には不明な点が多い。本研究ではヒトのTop2に着目し、これが細胞内にDSBが生じた際にどのような核内挙動を示すかを明らかにするとともに、DSB修復メカニズムにおけるヒトTop2の役割について解析を行う。ヒト細胞はTop2A、Top2Bの二種類のTop2を持っているが、既にTop2Bに関してはある程度の知見を得ていたので、本年度はTop2Aについて解析を行った。蛍光顕微鏡観察下においてHeLa細胞の核内に349 nmの波長のUVパルスレーザーを照射することでDSBを生成し、一定時間後に免疫染色法による内在性Top2Aの観察を行った。その結果、内在性Top2AがUVパルスレーザー照射による損傷部位に局在することが明らかになった。次に蛍光タンパク質EGFPと融合したヒトTop2AをHeLa細胞中で一過的に発現させ、UVパルスレーザー照射によるDSB生成にともなってEGFP-Top2Aが損傷部位へと集積するタイムコースを明らかにした。続いてDSBの感知と修復に重要な核内調節因子がTop2AのDSB集積に関与しているかを阻害剤を用いて検討した。ATM、ATR、DNA-PKcs、PARP1、HDACの阻害剤で細胞を処理した後、EGFP-Top2AのDSB集積をライブイメージング法で観察した。その結果、PARP1阻害剤やHDAC阻害剤によってEGFP-Top2AのDSB集積が減弱することが判明した。同様の結果はヒトTop2Bでも得られており、Top2AとTop2Bは類似したメカニズムでDSB部位に集積すると推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はTop2AのDSB集積について基礎的なデータが得られ、Top2Bと類似のメカニズムでDSB部位に集積することが示唆されるデータが得られた。次年度以降に他のDSB修復関連因子との関連性を解析することができる状態になっており、それに必要なsiRNAの設計と予備的な実験を既に進めていることから、概ね順調に進んでいると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は主要なDSB修復関連因子の阻害剤を利用した解析を実施したが、次年度はそれ以外のDSB修復関連因子についてRNA干渉法による機能阻害を行い、それがTop2A、Top2BのDSB集積に与える影響について検討を行う。またTop2相互作用因子が多数知られていることから、これらの機能阻害を同様に行ってTop2のDSB集積に与える影響を解析する。Top2がDNAの過剰なねじれを解消する過程は複数のステップからなり、各ステップを阻害する化合物が利用可能であることから、これらの化合物を用いてTop2を酵素反応サイクル中の特定のステップにとどめておいた際に、Top2のDSB集積がどのような影響を受けるかをライブイメージング法で検討する。それによりTop2の酵素反応サイクルとDSB集積の関連について知見を得て、Top2のDSB損傷応答メカニズムの理解を深める。
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