研究実績の概要 |
本研究では、放射線障害の重要な要因であるDNA二重鎖切断 (DSB) が核内に生じた際のヒトTop2の挙動を解析してきた。この研究過程で、UVパルスレーザーを核質に照射してDSBを生成させると、Top2が核質のDSBに集積することに加えて、核小体に集まる場合があることを観察した。FRAP解析を行ったところ、EGFP-Top2は核質と核小体の間で一定の平衡状態にあり、この平衡状態は細胞内ATPレベルに影響を受けていた。Top2の核小体局在にはRNAポリメラーゼ I (Pol I) の活性が必要であり、Pol I 阻害剤でTop2の核小体局在は抑制された。Top2依存的にDSBを引き起こす薬物であるエトポシドを細胞に作用させて生存率を測定したところ、低ATP状態ではエトポシドの細胞毒性が顕著に減弱することから、低ATP状態ではTop2のDNA結合が低下していると推察された。核小体が相分離により形成されること、ATPがハイドロトロープとして作用して相分離を打ち消す作用があることから、Top2の核内分布がATP依存的に変動する現象は相分離と関連して生じている可能性が推察された。 ヒト細胞はTop2A, Top2Bの二つのTop2を持っている。近年、Top2Bの一アミノ酸置換が脳神経系の機能異常を伴う遺伝性疾患の原因となる例がいくつか報告されている。そこでこういった変異がTop2BのDSB応答能に与える影響を解析したところ、これまでに報告されてきた変異の中に、DSB集積の著しい低下をもたらすものがあることを同定した。FRAP解析により、この変異を持つTop2Bは核内流動性が低下していること、Top2阻害剤であるICRF-187やICRF-193の作用を受けないことを観察し、遺伝性疾患の原因となる変異がTop2のDSB応答や核内動態に影響を与えるという新知見を得た。
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