研究課題/領域番号 |
19H04273
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
倉岡 功 福岡大学, 理学部, 教授 (60335396)
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研究分担者 |
竹立 新人 福岡大学, 理学部, 助教 (20846505)
塩井 成留実 (青木成留実) 福岡大学, 理学部, 助教 (50510187)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 放射線 / クラスターDNA損傷 / 塩基除去修復 / ヌクレオチド除去修復 |
研究実績の概要 |
放射線により生じるDNA損傷は、ゲノムDNAの非常に狭い空間的に複数個密集することがある。このように生じたDNA損傷の「かたまり」(クラスターDNA損傷)は、一般環境中に生じるDNA損傷と比べて、その損傷の密集性から非常に修復され難いと予測されている。また、このクラスターDNA損傷は、最終的にDNA鎖の切断を導き、遺伝子の欠失や挿入さらには転座、そして発がんに関与することが考えられている。 本研究では、ヒトにおける放射線生物影響の新しい理解を生み出すことを目的としている。具体的には、修復系が明らかになっている既知のDNA損傷の2つをDNA分子の特異的位置に挿入することで、クラスターDNA損傷を模倣し、細胞内でのクラスターDNA損傷の構造変化を生化学的および細胞学的に解析を行なった。 本年度はクラスターDNA損傷を有する新規DNA基質の合成方法を確立し、実際に合成を行なった。この方法により生化学実験が可能な一定以上の量のDNA産物を合成することができた。一方、DNAの修復を観察する系を、精製タンパク質を用いた無細胞系および生細胞を用いた細胞系に分けて解析することにした。 精製タンパク質においては、クラスターDNA損傷は修復反応によって正確に修復されないことがわかった。加えて、我々はクラスターDNA損傷でなく、一つのDNA損傷であってもDNA二本鎖切断を引きこすタンパク質を発見することができた。これらのタンパク質の性質を考慮した時、クラスターDNA損傷以外においてもDNA二本鎖切断を細部内で生み出す新たな誘発機構が存在することを示唆している。現在このタンパク質の解析も行なっている。 また細胞を用いた系においては、生きた細胞において新規の損傷をモニタリングできるシステムを構築した。これを用いてクラスターDNA損傷の解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
クラスターDNA損傷を有する新規DNA基質の合成方法は確立されてた一方、使用する予定であった損傷オリゴヌクレオチドを供給する会社がなくなり、損傷のタイプの変更を余儀なくされた。また、市販の酵素類の中にも生産中止となったものがあり、再調整を行うことになった。
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今後の研究の推進方策 |
我々の結論の一つとしては、生化学実験において、修復反応はクラスターDNA損傷を正確に修復することができない。このことはDNA二本鎖切断も起こらないことを示唆している。これらのことをさらに検証するために生細胞を用いた実験系を構築し、細胞学的解析用プラスミドDNA修復基質をDNA修復欠損細胞に導入し、修復をモニターする蛍光タンパク質を検出することで評価する。検出は、蛍光顕微鏡およびフローサイトメトリーにより解析する。加えて、生体内においてDNA二本鎖切断を引きこすタンパク質のDNA切断活性を解析する。このことは、放射線により生じたDNA損傷が、DNA二本鎖切断を引き起こす原因の一つであると考察している。
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