研究課題/領域番号 |
19H04277
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
星 信彦 神戸大学, 農学研究科, 教授 (10209223)
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研究分担者 |
横山 俊史 神戸大学, 農学研究科, 助教 (10380156)
池中 良徳 北海道大学, 獣医学研究院, 教授 (40543509)
平野 哲史 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 助教 (70804590)
市川 剛 獨協医科大学, 医学部, 講師 (80438712)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 農薬 / ネオニコチノイド / AOP(有害発現経路) / 継世代影響 / 生物学的モニタリング / カルシウムシグナリング / 食殺・育子放棄 / 発達神経毒性 |
研究実績の概要 |
農薬評価書における無毒性量(NOAEL: 雌65.1 mg/kg/day)を参考に,クロチアニジン(CLO)を65 mg/kg/dayの濃度で,母獣マウス(F0世代)に妊娠1日目から離乳(3週齢)まで自由摂取させた.実験①:雄産子に対し幼年期(3週齢)および成年期(10週齢)に行動試験を行い,自発運動量および不安様行動を評価した.試験後に脳を採取し,免疫組織化学および網羅的遺伝子発現解析に供した.実験②:対照群または投与群同士であるF1の雌雄を交配させてF2を作製し,同様にF2の雌雄を交配させてF3(第四世代)を作製した.それぞれ生後3週齢および10週齢に卵巣および血液を採取した.卵巣を一般組織学および抗酸化酵素マーカーによる免疫組織化学ならびに網羅的遺伝子発現解析に,血液をホルモン定量解析に供し,継世代影響ならびにそのAOP(有害発現経路)を検証した. 結果①:無毒性量のCLOの胎子・授乳期曝露は,神経回路形成期の海馬歯状回における神経発達を阻害し,曝露直後の幼年期では,とくにカルシウムシグナリングを低下させ,不安様行動を惹起した.その後曝露が無いにもかかわらず,成年期では,オリゴデンドロサイトおよび脳由来神経栄養因子(BDNF)関連遺伝子群の発現が攪乱され,自発運動量が増加した.結果②:継世代影響では,エストロゲン関連経路の活性化阻害が認められ,「食殺および育子放棄」の頻度が世代を経る毎に増加(F1: 3/9例,F2: 3/6例)した.以上より,CLOに対する神経毒性作用は3週齢と10週齢とで異なること,ならびにCLOの胎子・授乳期曝露が雌マウスにおいて継世代影響を及ぼすことが明らかになった.現行の「無毒性量」は,発達神経毒性的には無毒性ではなく,酸化ストレス→遺伝子発現変化→卵巣(含 形態およびホルモン発現)変化→母獣の母性行動異常,となるAOPを初めて明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
設定した本年度の研究実施計画を概ね完了することができた. 当初計画通り,AOP(有害発現経路)の基礎データ取得のための基盤設備を整えることができ,データを得ることができた.5篇の主論文が受理・掲載され(現在,さらに2篇を投稿準備中),著書も1篇,公表できた.学会発表では,国際シンポジウム4報を含め計9報を発表できた.また,本報告書には記載欄がなく明記していないが,学術集会以外での招請講演を通じて本研究内容および関連研究成果を行政および一般市民に提示することもできた.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き,現行の「無毒性量」において, ■親化合物のみならず,これまでほとんど検証されてこなかった代謝産物のメタボローム解析から,継世代(4世代)影響を明らかにし,哺乳動物におけるAOP(有害発現経路)を明らかにする. ■個体レベルでの評価: 新奇環境におけるマウスの行動指標を用いて,農薬投与後のマウスに対して,自発運動量/不安様行動,ストレス抵抗性,学習/短期記憶,社会性・恐怖心等に関する行動試験を実施し,ストレス関連行動を同時に測定する。また,妊娠動物を用い,胎子への移行量を含む,ADME(吸収・分布 ・代謝・排泄)を求め,基本的なToxico Kinetics / Dynamicsを明らかにする。さらに,尿や血漿を用いたOmics解析を実施し,曝露後に変化するバイオマーカーの検出を行う。 ■組織レベルでの評価: 神経回路形成期における受容体モジュレーター曝露による分化の攪乱を検証し、脳機能形成への影響を明らかにする.具体的には,農薬投与マウスに対し,各種神経マーカーの組織学的検出を強化し,神経幹細胞から神経細胞および各種グリア細胞への分化起点や配置への影響を検証する.同時に,超高分解能質量顕微鏡によるネオニコチノイド及びその代謝産物の組織分布のイメージング解析,蛍光色素蛋白質を用いた神経系の可視化等のイメージング技術を駆使して脳・神経系における解析を行う。また,腸内環境 (腸内細菌叢)や胸腺系を中心とした免疫系の探索も行う。 ■細胞・分子レベルでの評価: 組織レベルで同定された脳領域における初代培養系,もしくは培養細胞株を用いて,農薬曝露直後における神経興奮性の変化を解析する。化学物質蓄積部位や神経変性部位特異的に網羅的遺伝子解析を実施する. 最終的に,ネオニコチノイド曝露に起因する認知情動変容・発達神経毒性の診断バイオマーカーを特定する。
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