研究課題/領域番号 |
19H04282
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
清野 健 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (40434071)
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研究分担者 |
金子 美樹 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (10795735)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 二酸化炭素吸入暴露 / 環境衛生 / 生体信号解析 |
研究実績の概要 |
(1) 実験室内の二酸化炭素濃度上限を制御する自動換気システムの開発 室内環境の二酸化炭素濃度が生体機能に与える影響を定量的に評価するため、実験室内の二酸化炭素濃度をあらかじめ設定された値に制御できる自動換気システムを開発し、実験用チャンバーに実装した。このシステムでは、チャンバー内に設置された複数の二酸化炭素濃度センサーをモニタリングし、二酸化炭素濃度の上昇率に応じて外気の換気量が自動制御される。2020年度から、この実験用チャンバーを用いた被験者実験を行う。 (2) 小学校教室における二酸化炭素濃度の計測 小学校の授業中の室内二酸化炭素濃度を計測した。学校教室の二酸化炭素濃度の推奨基準である学校環境衛生基準 (文部科学省 2009)は1500ppmである。今回は12回の授業を計測し、これらのすべての授業において室内空気の二酸化炭素濃度が1500 ppmを容易に超える状況が確認された。40人構成のクラスでは1分間に二酸化炭素濃度が平均56 ppm増加し、30分程度で二酸化炭素濃度の上昇幅が1500 ppmを超えた。授業開始時に喚起が不十分な場合、授業終了時に3000 ppmを超える状況が観測された。今回の計測では、休憩時間中にすべての窓を開放し、授業途中にも1回(1~3分程度)窓を開放したが、教室内の二酸化炭素濃度を1500 ppm以下に維持することはできなかった。1000 ppmを超える二酸化炭素濃度の上昇は、眠気、倦怠感、頭痛を誘発する原因となるため、効果的喚起を実現するための改善策の導入が必要であることが確認された。 (3) 長時間相互相関の解析法の開発 室内二酸化炭素濃度などの環境因子と心拍数などの生体信号との相関を分析する新たな方法をして、非定常時系列に適用可能な長時間相互相関の解析法を開発した。この解析法を支える数学的体系を構築し、実用のための指針をまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は実験的研究の実施の準備として、室内二酸化炭素濃度を制御可能な自動換気制御システムおよび実験用チャンバーを開発した。この成果に基づき、次年度以降に計画されている実験を当初の計画通りに実施できるため、本研究計画はおおむね順調に進展していると判断した。ただし、2020年2月中旬以降、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の対策として、実験実施を一時的に停止してため、当初計画に対して1カ月程度の遅延が発生した。 また、室内二酸化炭素濃度などの環境因子と生体信号の相互作用を評価するための、時系列解析法の開発についても、大きな進展があった。これまで、2信号間にみられる長時間相互相関については、その解析法が十分に確立していなかった。本研究では、数学的に厳密な議論に基づき、従来の解析法の問題点を明らかにし、その改善策を示した。この成果は、当該研究だけでなく、多変量時系列を扱う広い分野に応用可能であるので、学術的な意義が大きい。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 室内二酸化炭素濃度が生体機能に与える影響の評価 室内二酸化炭素濃度を制御可能な実験用チャンバーを用いた被験者実験を実施する。室内二酸化炭素濃度を500ppmから、2000ppm程度まで変化させ、心拍数、呼吸数、脳波などの生体信号を計測する。呼吸数については、特別なセンサを用いることなく、心拍計を用いた計測を実現する。これらの生体信号の特性変化を評価し、眠気や倦怠感と関連して誘発される生体応答の特徴を明らかにする。この研究を通じて、生体信号を用いた眠気発生の客観的な評価法を開発し、実労働環境(トラック、鉄道運転手など)において発生する眠気の評価に応用する。これは、車内二酸化炭素濃度の上昇の影響を評価するための準備である。 (2) マルチモーダル生体信号の解析法の開発 心拍数、呼吸数、身体活動量、脳波など複数の生体信号の相互作用を評価する時系列解析法を開発する。単変量の時系列特性の変化だけでなく、相互作用の変化を評価することで、二酸化炭素の吸入暴露の影響をより詳細に分析可能にする。前年度は、相互相関などの多変量間の相互作用の有無の評価法を開発したが、本年度は因果性についても評価可能な方法を検討する。 (3) 実労働環境の評価 ウェアラブル生体センサを活用し、自動車工場、鋳造工場、野菜工場などにおいて、作業者の生体情報および環境因子を計測し、分析する。計測された生体情報に基づき、作業負担、疲労などのを評価できる時系列解析法を開発する。環境因子としては、二酸化炭素濃度だけでなく、温湿度、窒素化合物、微粒子 (PM2.5など)を計測し、職場環境を状態を詳細に調べる。現在、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の対策として、労働者がマスクを着用したまま働く状況にある。そのようなマスク着用の影響についても評価することで、マスク着用による作業負担や暑熱リスクの変化を明らかにする。
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