堆積物コア試料による近過去の生態系情報の復元は、近過去の気候変動や地形変化、災害前後による生態系状態について考察し、生態系変動予 測に利用できる データを得ることができる有力な手法である。しかし、これまでの魚類に関する古海洋学的研究では、堆積物中で鱗が残るイワ シ類に限られ、その他の魚類群集 全体については復元する手立てがこれまでなかった。本研究では堆積物コア中に残存する環境DNAに着目する 。環境DNAとは環境中に含まれる様々な生物由来の DNA断片のことであり、これを採集し、解析することによって、環境中にどんな生物種が生息 しているかを明らかにすることができる。 今年度(2021年度) は、2020年度に引き続き、別府湾最深部から堆積物コア試料を採取して、環境DNA解析を行った。 この、海底堆積物を対象に魚類の DNA をそれぞ れ網羅的に増幅するMIFishユニバーサルプライマーを用いて 環境 DNA メタバーコーディングを行い、それらの種が実際に海底堆積物から検出できることを確認した。 定量メタバーコーディングについては、やはり抽出DNA量の少なさからか、解析に至るほどの精度での解析はできなかった。しかし、MIFishユニバーサルプライマーを用いて堆積物サンプルについてメタバーコーディングが可能であることは実証できた。さらに、今年度は新たにカタクチイワシ特異的な遺伝的多様性を評価する領域(チトクロムb)に新規にプライマーを設計し、それを用いて遺伝的多様性を評価した。その結果、8つのハプロタイプが検出できた。主に表層で多くのハプロタイプが検出されたが、深部からのサンプルでもいくつかのハプロタイプが検出された。こちらの遺伝的多様性の研究はまだ完成していないため、今後さらに研究を展開したいと考えている。
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