研究課題/領域番号 |
19H04290
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中島 典之 東京大学, 環境安全研究センター, 教授 (30292890)
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研究分担者 |
飛野 智宏 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (90624916)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 環境DNA / 底生生物 / 底泥 |
研究実績の概要 |
以下の3つの研究項目(①~③)について、対象DNA試料として汽水産底生甲殻類のニホンドロソコエビ(Grandidierella japonica)を用い研究を進めた。 ①【起源試料の調製】現実の環境DNAの起源を想定した分解試験に供するため、起源試料を調整した。前年度までに捕食者の糞を確保したが、本年度はニホンドロソコエビの増殖に伴い排出される糞の採取を試みた。効率的に大量の試料を採取するため、飼育槽の底泥から分離することとし、顕微鏡観察下での手作業での厳密な分離と、沈澱・ろ過による大まかな物理的分画とを比較し、必要量を現実的な時間内に確保する点で後者の方法を採用した。ニホンドロソコエビの糞を主体とする試料約250mgよりDNAを抽出し定量したものの、当該生物由来のDNAは検出下限以下であった。この試料調製作業の過程でサイズの小さい生体が散見され、これらの生体そのもの(および死骸)に由来する底泥中DNAの分解についても今後の検討が必要と考えられた。 ②【分解実験】暗所のビーカー試験により、前年度採取済みの上位捕食者(マハゼ)の糞の分解試験を実施し、糞に含まれるニホンドロソコエビ由来DNAの分解を観察した。前年度の課題として指摘したDNA抽出手法改善を行い、高感度で分析したものの、分解が極めて遅い結果は同様であった。 ③【分解機構の解明】上述のマハゼ糞分解試験の微生物試料を採取し、微生物叢の解析(16Sアンプリコンシーケンス、V3-4領域)を行った。初期のニホンドロソコエビ飼育槽底泥由来微生物、糞由来の微生物とは異なる微生物が、分解試験開始3時間後に優占し、すぐにまた別の微生物が優先する等1週間の間に大きな変動が認められた。これらの詳細解析は翌年度実施し、環境DNAの分解に関わる微生物の特徴づけを行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ニホンドロソコエビそのものの糞の回収とそこに含まれるDNA定量には想定していた以上の困難があり、結果的には分解試験に供する必要がないという判断となった。一方で、通常の試験操作では見逃してしまうふ化後間もない微細な個体由来のDNAが、分解試験の結果を解釈する上で無視できない可能性が見出された。分解速度定数を求めるという当初の目的は達成していないが、環境中での当該生物のDNA動態を理解する上で重要な視点を明らかにし、最終年度に注力すべき点が明確になったという点で重要な知見であり、研究課題の進捗としては全く問題がないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの結果から重要と考えられる微細な個体由来のDNAの分解試験を実施するとともに、微生物解析の結果を整理し、実環境中での分解動態の理解を進める。
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