建物の解体や補修前に必要な建材アスベスト調査は年間約188万件と推定されており、アスベスト検査の高速化(多検体化)が急務とされている。申請者らはアスベストに特異的に結合するタンパク質を発見し、アスベスト検査に応用した。DksAは、クリソタイルに結合するタンパク質である。前年度DksAをアフィニティーリガンドとしたAlphaLISA法によって、タルク中に含まれる0.1 %のクリソタイルを検出することができた。蛇紋石は化学式Mg6Si4O10(OH)8で表される鉱物で、クリソタイル(アスベスト)と、アンチゴライト(非アスベスト)が含まれる。同じ化学式でも結晶の繰り返しのパターンの違いで繊維状(アスベスト)になったり、平面状(非アスベスト)になったりする。これらはX線を用いた分析法ではほぼ見分けがつかない。本年度は、DksAを用いて、蛇紋石を構成するクリソタイルとアンチゴライトを見分ける方法の確立を行った。DksAとアルカリホスファターゼ(Ap)とを遺伝子操作により融合させ、「アスベスト検出酵素」を作製した。この検出酵素が試料中のアスベストと接触することにより、アスベストに結合し、アルカリホスファターゼの反応を利用してアスベストを検出することができる。粉砕した建材試料をチューブ内でアスベスト検出酵素と混合し、遠心分離した後、上清を除去する。アスベストが存在する場合のみ、酵素がアスベストに結合し共に沈殿するので、そこに発色基質を添加すれば、肉眼でアスベストを検出することが可能である。本方法に必要な機材は卓上型の簡素な遠心機程度であり、現場でも実施可能な簡便な検出方法として用いられている。アスベスト検出酵素は、X線を用いた分析法ではほぼ見分けがつかないクリソタイルとアンチゴライト(及びリザルタイト)を区別することができた。
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