研究課題/領域番号 |
19H04295
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研究機関 | 横浜薬科大学 |
研究代表者 |
埴岡 伸光 横浜薬科大学, 薬学部, 教授 (70228518)
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研究分担者 |
神野 透人 名城大学, 薬学部, 教授 (10179096)
須野 学 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 准教授 (20621189)
香川 聡子 横浜薬科大学, 薬学部, 教授 (40188313)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 生活環境化学物質 / リスク評価システム / 異物応答因子 / 異物代謝酵素 / オウゴニン |
研究実績の概要 |
本研究は、化学物質の安全性・毒性をこれまでの概念にとらわれずに、異物応答因子(異物代謝酵素およびその転写制御因子)に着目して、実験動物の情報をヒトに直接外挿できる革新的な評価システムを構築することを目的とする。本年度は、ヒトおよび実験動物(サル、イヌ、ラット、マウス)におけるオウゴニンのグルクロン酸抱合反応を肝臓および小腸のミクロゾーム画分を用いて検討した。 オウゴニンは、コガネバナから単離されるフラボンであり、抗炎症作用や抗腫瘍活性などの生理機能を有することが報告されている。しかし、漢方薬に用いられる場合は、副作用のリスクを考慮した配合が必要となる。本課題では、ヒト、サル、イヌ、ラットおよびマウスの肝臓および小腸ミクロゾームのオウゴニンに対するグルクロン酸抱合活性を測定し、速度論的解析を行った。肝臓ミクロゾームによるグルクロン酸抱合反応は、検討したいずれの動物種もbiphasicモデル(2相性)に従う速度論的プロファイルを示した。CLint(in vitroクリアランス)値は、ラット>ヒト≧サル>マウス>イヌであった。小腸のミクロゾームにおいては、ヒト、サル、ラットおよびマウスではMichaelis-Mentenモデル(1相性)、イヌでは基質阻害の速度論的プロファイルを示した。CLint値は、ラット>サル>マウス>イヌ>ヒトであった。 これらの結果は、オウゴニンのグルクロン酸抱合反応に関与する異物応答因子(異物代謝酵素)の臓器分布性および機能は動物種により大きく異なることを示唆するものであり、オウゴニンをはじめとしたフラボン類の生理作用や毒作用を評価する重要な情報となるものと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、生活環境中の化学物質のモデルとして、漢方薬にも配合され、抗炎症作用や抗腫瘍活性などを有するオウゴニンに着目した。異物応答因子の酵素源としてヒト、イヌ、サル、ラットおよびマウスの肝臓臓および小腸のミクロゾームを用いた。これらのミクロゾームは、オウゴニンをはじめとしたフラボン類には生体に対して毒性化および解毒化の両生物活性を有すること、また異物代謝酵素には分子的および機能的多様性があることに基づいている。フラボン類の肝臓および小腸における代謝プロファイルは、ヒトと実験動物では異なることを明らかにし、生理活性を有する化学物質のリスク評価には加水分解酵素などの異物応答の特性を考慮して行わなければならないことを実証した。 当初の計画では、昨年度および本年度の成果に基づいて、カルボキシエステラーゼ(CES)、シトクロムP450(CYP)およびUDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)のヒトおよび実験動物(ヒト、イヌ、サル、ラット、マウス)のタンパク質発現および特性を分子種レベルで解析する計画であった。しかし、新型コロナの感染拡大のため、異物代謝酵素のタンパク質発現量の測定するための抗体や酵素活性を測定するための代謝物標品を製造しているメーカーの試薬の一時停止あるいは減産による納期遅延に伴い研究遂行に遅れが発生している。遅延している研究課題に使用する試薬が納品され次第、それぞれの課題について実験を再開する。
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今後の研究の推進方策 |
(1)ヒトおよび実験動物の異物応答因子のタンパク質発現解析:ヒト、サル、イヌ、ラットおよびマウスの肝臓、小腸および肺のミクロゾームあるいはサイトゾールにおける異物代謝酵素および転写制御因子のタンパク質発現レベルをウェスタンブロット法により定量解析する。 (2)異物代謝酵素の機能の種差および個人差の解析:ヒト、サル、イヌ、ラットおよびマウスの肝臓、小腸、および肺のミクロゾームにおける異物代謝酵素のそれぞれの分子種の代表的基質に対する活性を測定し、速度論的プロファイルからクリアランス値を算出する。 (3)フタル酸エステル類の加水分解反応の種差:フタル酸ジブチル(DBP)およびフタル酸ブチルベンジル(BBzP)はシックハウス症候群の原因となり、また内分泌かく乱を惹起する可能性が示唆されている。フタル酸エステル類の毒性の構造活性相関を解明するために、DBPおよびBBzPの加水反応の種差(ヒト、サル、イヌ、ラット、マウス)を肝臓および小腸のミクロゾーム画分を用いてin vitro系で検討する。 4)ビスフェノール化合物のグルクロン酸抱合反応の種差:ビスフェノールA(BPA)は、内分泌かく乱を惹起する可能性が示唆されている。そのため、BPAより毒性が低いビスフェノールF(BPF)やビスフェノールS(BPS)が合成され、BPAの代替物質として産業界で広く使用されるようになってきた。しかし、これら化学物質の生体影響は十分に解明されていない。ビスフェノール化合物の毒性の構造活性相関を解明するための一環として、BPAおよびBPFの解毒的代謝反応のグルクロン酸抱合反応の種差(ヒト、サル、イヌ、ラット、マウス)を肝臓および小腸のミクロゾーム画分を用いてin vitro系で検討する。
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