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2020 年度 実績報告書

自己凝集性ペプチドの可逆コアセルベーションによる環境汚染物質吸着システムの開発

研究課題

研究課題/領域番号 19H04303
研究機関九州大学

研究代表者

野瀬 健  九州大学, 基幹教育院, 教授 (10301334)

研究分担者 友原 啓介  九州大学, 基幹教育院, 助教 (40711677)
巣山 慶太郎  九州大学, 基幹教育院, 助教 (60707222)
研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2022-03-31
キーワードペプチド / コアセルベーション / 吸着
研究実績の概要

本年度は、合成したELPを用いて化学物質吸着特性解析、特に、ビスフェノール(BP)類など芳香環を有する化学物質のELPへの吸着性解析、および、金属結合性ヘキサペプチドを付与したELPの金属結合性について検討を行った。
ビスフェノールや芳香族性の官能基を有する化合物について、ELPを用いてその自己凝集に対する影響等を検討したところ、特に、ビスフェノールA(BPA)を含む溶液においては、それがない場合と比べて低い温度でも凝集体を作ることが見いだされた。このため、BPAの濃度を変えて検討を実施したところ、凝集体形成に対する濃度依存性が見られることが確認された。
一方、金属結合性解析においては、金属結合性ヘキサペプチドを付与したELPがCd2+との結合性を示すこと、有為な凝集体形成を起こすことを明らかとした。特に、Cd2+を含まない溶液中でのELPの相転移温度が約45℃、Cd2+を含む溶液中での相転移温度が約2℃であることが判明し、この顕著な相転移温度の低下効果は、今後の応用研究においてELPがコアセルベートを形成し易くなることから有用であると考えられた。また、吸着した金属を解離させ、ELPを再利用する処理方法も見いだした。また、NTAやEDTAなどのキレート剤とのELP複合体の合成を行い、それらの金属結合性、形状についても検討を行った。それらのNTAと結合したELPにおいては、数マイクロメートルの粒径を持つコアセルベートを形成することがSEM測定から見いだされた。また、このコアセルベートは温度依存的に生成し、低温では溶液状態であったものが35℃程度になるとマイクロ粒子を形成することが判明した。それらは、Cu2+やNi2+との濃度依存的な結合性を示した。これらの結果から、ELPを用いた化学物質および金属を吸着する基盤となる担体の開発が確立されつつあると考えている。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究が概ね順調に進展していると判断した理由は、以下の様に説明される。
まず、NTAやEDTAなどの金属キレート剤をELPに結合させたELP複合体の設計、合成、開発を行い、それらの凝集能解析、コアセルベートの形状解析を複数の実験手法により明らかとした。また、それらの調製にあたり液相法、マイクロウェーブ法、フラグメント縮合法など、複数の異なった合成方法を用いて検討を行い、特に、フラグメント縮合法によって種々のELPの調製を可能とした。さらに、それらの金属結合性の解析を実施し、結合する金属の特性を明らかとしたことが進展として挙げられる。また、別の方法として、結合性ヘキサペプチドをコンジュゲートしたELPにおいても、Cd2+などとの有為な結合性を明らかとすることができた。これらにより、2価金属結合性を有するELP誘導体を用いる溶液中の金属を回収する担体の調製を行うことができたと判断された。
一方で、ビスフェノールA(BPA)や有機化合物とELPの相互作用解析実験においては、ELPのコアセルベート形成温度の低下が見られ、このことからBPAなどが存在する場合、ELPはコアセルベートを形成しやすくなり、溶液中からの除去が容易になるということが考えられた。
以上により、溶液中から環境化学物質、および、金属を回収するELPを吸着担体として用いるシステムの基盤確立のための研究が計画に沿って進展しており、「概ね順調に進展している」、と判断された。

今後の研究の推進方策

2020年度において開発されたELPおよびそのアナログ体を用いた環境化学物質の吸着除去システムの基盤確立のために、最終年度においては、ELPおよびそのアナログ体の量的調製、システムのモデル系の構築、に焦点を当てて研究を進める。1)ペプチドの量的調製のために必要とされる合成方法については、これまでに本研究において液相法、マイクロウェーブ法、フラグメント縮合法などを開発、実施してきた。しかし、現在のところ、それらを単独に用いるだけでは簡便な大量調製を成し遂げることができてはいない。そこで、それらを組み合わせて、より効率的な調製方法の確立を目指す。すでに達成しているように、液相法によるフラグメントの大量調製、マイクロウェーブ法によるフラグメント縮合の組み合わせを用いる予定である。2)次年度においては、ペプチドシンセサイザーを追加導入、もしくは、更新するなどし、迅速なペプチド合成を可能とすることでの研究を加速させる手立てを講じ、システムに用いるペプチド担体を十分に調製する。3)より簡便に合成可能なELP、特に、アミノ酸配列が現在用いているELPよりも短く、合成が簡便のみならず経済性にも優れたELPを採用し、調製後に試験系に用いるなどして、より効率的なシステムモデルを確立する事を目指す。4)ELPアナログの物理化学的性質、構造特性など基礎的なデータを集め、より有効な担体の調製を目指す。このような方針・方策のもと、研究を推進する。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)

  • [雑誌論文] Simple Regulation of the Self-Assembling Ability by Multimerization of Elastin-Derived Peptide (FPGVG)n Using Nitrilotriacetic Acid as a Building Block2021

    • 著者名/発表者名
      Keitaro Suyama, Mika Mawatari, Daiki Tatsubo, Iori Maeda, and Takeru Nose
    • 雑誌名

      ACS Omega

      巻: 6(8) ページ: 5705-5716

    • DOI

      10.1021/acsomega.0c06140

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Development of self-aggregating elastin-like peptide analogs with a metal-binding sequence2021

    • 著者名/発表者名
      Shogo Sumiyoshi, Keitaro Suyama, Takeru Nose
    • 雑誌名

      Peptide Science 2020

      巻: 2020 ページ: 67-68

    • 査読あり
  • [学会発表] Development of self-aggregating elastin-like peptide analogs with a metal-binding sequence2020

    • 著者名/発表者名
      Shogo Sumiyoshi, Keitaro Suyama, Takeru Nose
    • 学会等名
      第57回ペプチド討論会
  • [学会発表] トリハロゲン化メチル基含有ビスフェノール:ERα-アゴニスト・ERβ-アンタゴニストの二価性活性の原動力はハロゲンに働く分散力である2020

    • 著者名/発表者名
      劉 暁輝、巣山慶太郎、志岐潤一、鳥飼浩平、野瀬 健、下東美樹、下東康幸
    • 学会等名
      令和2年度日本生化学会 九州支部例会
  • [学会発表] 三環系ビスフェノールを用いたエストロゲン受容体アンタゴニストの戦略的設計合成2020

    • 著者名/発表者名
      岩本雅輝、巣山慶太郎、野瀬 健、松島綾美
    • 学会等名
      令和2年度日本生化学会 九州支部例会

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公開日: 2021-12-27  

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