研究課題/領域番号 |
19H04309
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
柴山 敦 秋田大学, 国際資源学研究科, 教授 (30323132)
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研究分担者 |
山田 学 秋田大学, 理工学研究科, 講師 (90588477)
芳賀 一寿 秋田大学, 国際資源学研究科, 准教授 (10588461)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | マルチコレクター / 溶媒抽出 / 抽出剤 / 貴金属 / リサイクル / 捕収剤 |
研究実績の概要 |
貴金属リサイクルで多用される溶媒抽出では、抽出剤の選択性、抽出能力が極めて重要な役割を果たす。近年、リサイクル技術の高度化に向け多種金属への選択性や抽出効果を高めた抽出剤が求められているが、研究代表者等がこれまで開発した「カニばさみ型抽出剤」を基本材料とし、その抽出能力の改善や抽出対象金属の拡大を主たる目的に研究を進めた。新たな抽出剤を開発するための合成実験として、ベンゼン環のオルト位、メタ位、パラ位の位置に硫黄を含む官能基を結合させた全く新しいタイプの「可変式カニばさみ型マルチコレクター」の開発を進めた結果、研究初年度はパラ位に配位させたパラ置換体1,4-ビス(オクチルチオ)ベンゼンの合成に成功するなど、基本となる合成手順の確立を行った。次いで、合成したパラ置換体の抽出剤を用いて金(Au)およびパラジウム(Pd)に対する抽出試験を行った結果、パラ置換体を有機相内で希釈する希釈剤の種類によって抽出能力が大きく変化するという興味深い傾向を確認することができた。概略を述べると、ケロシンを希釈剤として使用するとPdを優先的かつ高効率に抽出し、極性が強いクロロホルムを使用した場合にはAuを優先的に抽出できることがわかった。一方、類似の構造を持つメタ置換体とパラ置換体に関しては、銅鉱物への浮選剤(捕収剤)として利用することを目的に基礎的な浮選試験を行った。その結果、浮選時の条件付け時間が5分と短い場合には銅鉱物の回収率が20~30%と低いものの、浮選時の条件付け時間を60分に延ばすと、メタ置換体においては銅の回収率が約84%に大きく上昇するなど浮選(捕収)剤として利用するための基礎的な可能性を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度にあたる令和元年度は、「可変式カニばさみ型マルチコレクター」の合成条件から検討を始めた。オルト、メタ、パラ構造のジブロモベンゼンを出発原料とし、オクタンチオールを触媒に作用させることで、チオエーテル基の導入を試みた。パラ構造のジブロモベンゼンをオクタンチオールと反応させた場合には、オクタンチオール基を2個置換することが可能であった。一方、メタとオルト-ジブロモベンゼンへのオクタンチオール基の導入は、合成条件の精査段階にあるが、メタ位への導入に関しては2置換体が合成できることを確認した。オルト置換体の合成は継続中であるものの、現時点ではメタおよびパラ-ジブロモベンゼンへの2個のオクタンチオール基の導入に成功し、特にパラ置換体に関しては最適な合成条件を見出すことができた。合成したパラ置換体の1,4-ビス(オクチルチオ)ベンゼンを用いて金(Au)およびパラジウム(Pd)に対する抽出試験を行った結果、パラ置換体の抽出剤は、希釈剤の種類により特異的な抽出結果を示すことが明らかになった。具体的には、ケロシンを希釈剤として使用するとPdを優先的かつ高効率に抽出し、極性が強いクロロホルムを使用した場合にはAuを優先的に抽出できることがわかった。一方、抽出機構については、抽出錯体の化学量論をJob’s プロットによって考察した結果、今回のパラ置換体の抽出剤は、PdとAuのいずれも抽出剤と1:1の錯体を形成することで抽出している可能性が高いことを確認した。 一方、捕収剤としての利用を目的にした銅鉱物への浮選試験では、メタ置換体とパラ置換体を用いて基礎調査を行った。特に浮選時における条件付け時間が大きく影響し、条件付けが5分間の時は銅鉱物の回収率は20~30%と低いものの、条件付け時間を60分間に延ばすと、メタ置換体の回収率が約84%まで大きく上昇することを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度以降に関しては、ベンゼン環のオルト、メタ、パラ置換体のジチオエーテル型抽出剤を合成し、各化合物の貴金属に対する抽出試験を行う。これにより「可変式カニばさみ型マルチコレクター」として、貴金属の選択的な捕捉・抽出が可能か調査を進める。特に令和2年度は、オルトとメタ置換体である1,2-あるいは1,3-ビス(オクチルチオ)ベンゼンの合成条件の検討を行う。既に、メタ置換体である1,3-ビス(オクチルチオ)ベンゼンの合成は確認できており、反応時間や化学量論などを精査することで最適条件を見出すことが可能だと考えている。一方、オルト置換体に関しては引き続き合成手順を検討するが、ジヨードベンゼンなどの反応性が高い化合物を出発原料にすることで2置換体の合成を目指す。合成に成功した1,4-ビス(オクチルチオ)ベンゼン〔パラ置換体〕に関しては、パラジウム(Pd)や金(Au)以外の貴金属に対する抽出挙動を明らかにするとともに、メタ置換体である1,3-ビス(オクチルチオ)ベンゼンの貴金属イオンに対する抽出能力についても調査を進める。また、貴金属イオンの抽出メカニズムを単結晶X線構造解析やスペクトル解析法など用いて化学的に解明する。さらに、銅鉱物を対象とした浮選試験を行い、「捕収剤」としての分離性や既存の捕収剤との比較などを実施する。具体的には、合成した化合物の添加量やコンディショニング方法を中心に基礎的な浮選試験を行い、銅鉱物への分離性や回収率などの定量評価を行う。併せて既存の捕収剤と比較し、どのような特性・効果を有するのか捕収剤としての能力を調査する。
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