研究実績の概要 |
ベンゼン環に2個のチオール基を持つオルト-, メタ-, パラ-Benzenedithiolの3種類を出発原料とし、チオエーテル部位を有する3種類の可変式カニばさみ型マルチコレクターの開発に成功した。これらを溶媒抽出用「抽出剤」として利用するために、本年度はパラジウム(Pd(II))を対象に溶媒抽出試験を行った。希釈剤にクロロホルムを選定し、Pd(II) 0.1 mMを含む0.01 M 塩酸溶液に対して行った抽出試験では、メタ型抽出剤は濃度20 mM、振とう時間30分でPd を99%以上抽出できることを明らかにした。また、オルト型抽出剤は濃度40 mMかつ15 hで、パラ型抽出剤では80 mMかつ21 h以内でPdの抽出率がほぼ100%に達することがわかった。さらに、オルト型とパラ型に関しては、6 Mまでの塩酸溶液であればPdの抽出率は安定して90%以上になることを確認した。 一方、鉱物処理で用いる浮選用「捕収剤」については以下の2種類の薬剤を合成した。一つは、ベンゼン環のオルト位にアミノ基とチオール基をもった2-Aminobenzenethiolを出発原料とする捕収剤「2-(オクチルチオ)アニリン」である。もう一つは、ベンゼン環のオルト位に2個のヨード基を有するo-diiodobenzeneを出発原料とした捕収剤「1,2-ビス(オクチルチオ)ベンゼン」である。両者の銅鉱物に対する捕収効果を調べたところ、pH9の浮選条件において、銅の回収率がいずれも50~60%に達するなど、基礎的な浮選試験としては十分な分離性を得ることができた。昨年合成した捕収剤「1,3-ビス(オクチルチオ)ベンゼン」等との比較を行ったが、一連の研究で合成した捕収剤は、既存捕収剤であるザンセート(Potassium Amyl Xanthate)にはやや劣るものの、銅鉱物に有用な捕収効果があることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、溶媒抽出用「抽出剤」と浮選用「捕収剤」の新規合成を目指し研究を進めた。抽出剤については、オルト-, メタ-, パラ-Benzenedithiolを出発原料とし、3種のチオエーテル部位を有する可変式カニばさみ型マルチコレクターの開発に成功した。これら抽出剤は、オルト型抽出剤〔1,2-ビス(2-メチルチオ)エチル)チオベンゼン〕、メタ型抽出剤〔1,3-ビス以下同構造〕、パラ型抽出剤〔1,4-ビス以下同構造〕であり、これらを用いてPd(II)に対する抽出実験を行った。各抽出剤の濃度をはじめ、希釈剤の選定、抽出対象となるPd水溶液の塩酸濃度、振とう時間など、Pdの抽出率に与える主要な条件を当初計画通り調査した。いずれの抽出剤も、Pdの抽出能力は高く、抽出率は80%以上に達し、メタ型抽出剤は抽出開始後30分程度で99.4%の抽出率を得るなど高い抽出能力を確認した。 捕収剤については、昨年度合成したジブロモベンゼンを出発原料とするメタ型捕収剤「1,3-ビス(オクチルチオ)ベンゼン」、パラ型捕収剤「1,4-ビス以下同構造」に加え、本年度はオルト型捕収剤「1,2-ビス(オクチルチオ)ベンゼン」と、新たにベンゼン環のオルト位にアミノ基とチオール基を配置させた新規捕収剤「2-(オクチルチオ)アニリン」の合成に成功した。これら新規捕収剤と既存捕収剤ザンセート(Potassium Amyl Xanthate)の5種類に対し、銅鉱物への浮選試験を行った。その結果、ザンセートの銅回収率が73%前後と分離効果は最も優れているものの、メタ型捕収剤「1,3-ビス(オクチルチオ)ベンゼン」もほぼ同等の捕収効果があり、捕収剤「2-(オクチルチオ)アニリン」では銅の回収率が60%前後に達するなど、基礎的な分離性を有していることを明らかにした。以上のことから、計画通りに研究を遂行したと判断する。
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