研究課題/領域番号 |
19H04318
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田代 喬 名古屋大学, 減災連携研究センター, ライフライン地盤防災産学協同研究部門特任教授 (30391618)
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研究分担者 |
野崎 健太郎 椙山女学園大学, 教育学部, 准教授 (90350967)
松本 嘉孝 豊田工業高等専門学校, 環境都市工学科, 准教授 (40413786)
谷口 智雅 三重大学, 人文学部, 特任教授(教育担当) (70449320)
八木 明彦 愛知工業大学, 工学部, 教授 (00097718)
江端 一徳 豊田工業高等専門学校, 環境都市工学科, 講師 (20846167)
倉田 和己 名古屋大学, 減災連携研究センター, 特任准教授 (50579604)
吉冨 友恭 東京学芸大学, 環境教育研究センター, 教授 (20355829)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 火山麓水系 / 発電取水 / 炭酸ガス湧出水域 / 無機強酸性湧水域 / 生育/生息制限要因 / 大型糸状緑藻 / 水生貧毛類 / 水・物質動態モデル |
研究実績の概要 |
2021年度の研究実績について、研究実施計画に掲げた5つのサブテーマを3つのカテゴリーに集約して、以下のように記載する。 (1)火山を有する水源地における自然災害、水利用からみた水環境のスクリーニング・(2)調査地における自然災害と水資源開発による地域変容と地誌概観:水資源賦存量の大きな火山麓水系における発電取水の実態について、御嶽山麓に位置する木曽川上流の王滝川水系を対象に、取水形態と取水前後の流量観測を行った。発電事業者による取水口とそこでの許可取水量によって、無水区間や減水区間が流程に断続的に分布する様子を確認し、それが陸水環境に影響する可能性について考察した。 (3)火山活動の影響を考慮した地形―水質―底質の形成過程の解明・(4)地先の水環境における群集動態と食物網構造、生態系機構の分析:火山麓水系にあって河床から炭酸ガスが湧出する水域を抽出し、それらを含む調査地において水質、河床付着生物膜、底生動物に関する季節変化を調査した。その結果、当該水域は、常時安定的に純度の高い二酸化炭素ガスが河床から湧出し、pH4.5~5.5の弱酸性水によって構成されていること、それらがカルシウム濃度の高い特殊な水質、ならびに、酸化鉄が多く析出した赤褐色の底質を形成していること、さらに、酸度による生育・生息制限を介して、付着藻類繁茂の空間変異と特殊な水生貧毛類からなる底生動物相を成立させていることなどが示唆された。また、同じく火山麓水系にあって大型糸状緑藻が生じる無機強酸性湧水域を調査することにより、溶存無機態炭素濃度がその繁茂要因である可能性が示された。 (5) 水系における自然・人工系の水・物質循環諸過程の統合モデル構築:王滝川中流域を対象に2段タンクモデルを用いて降雨~流出過程と発電取水を考慮した水文モデルを構築し、火山麓に特有な硫酸イオン・フラックスを介して水・物質動態を考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍により現地調査の頻度・強度を制限せざるを得ない面はあるが、季節変化に着目した定点観測を重点化し、既存資料を活用した文献レビューを進めるなど、当初計画を補間する取り組みを進めている最中にある。当初の見込みと必ずしも一致していない部分はあるが、これまでの現地調査で取得したデータと既存資料を組み合わせた解析によって成果が得られつつあることから、現状としては「おおむね順調」と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
噴火や地震を引き起こしつつ山体を形成してきた火山は、その脆弱な地質が優れた水源地域を形成する。山麓では時に崩壊が生じ、強酸性水が局地的に流出するため、特異な水環境が不連続に分布している。火山から流出する山麓河川では、近代以降、豊かな水資源を活用すべく開発が盛んに行われ、噴火・地震などの自然災害とダム・堰堤などによる人為的影響が複合的に作用した結果、今日の不連続な水・物質循環が駆動されている。 本研究は、度重なる自然災害を受けながら強度に利用されてきた火山麓地域を対象とし、自然災害と資源開発が水系に及ぼす影響を明らかにして自然共生に資する知見を得ることを目的としてきた。自然・人工作用の両面から頻度・強度が異なる様々な要因が輻輳し、地先に成立した特異な水環境とそこに付随する生態系の物理・化学・生物・地学的特性に対する理解をさらに進めるべく、調査研究を進展させる。さらに、こうした目的に沿って得られた成果を地域へ還元すべく、調査地周辺で(2022年7月に)開館予定の「御嶽山ビジターセンター」の展示構成を学術的に支援するとともに、web上にて「クラウド型ミュージアム」を公開することにより、研究成果のアウトリーチを推進する。 上記した構想を具現化するためにも、これまでに引き続き、次の5つのサブテーマに対する研究を深化させて取り纏める。すなわち、(1) 火山を有する水源地における自然災害、水利用からみた水環境のスクリーニング、(2) 調査地における自然災害と水資源開発による地域変容と地誌概観、(3) 火山活動の影響を考慮した地形―水質―底質の形成過程の解明、(4) 地先の水環境における群集動態と食物網構造、生態系機構の分析、(5) 水系における自然・人工系の水・物質循環諸過程の統合モデル構築である。
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備考 |
2021年度は、日本陸水学会第85回大会において「課題講演:火山山麓河川の陸水環境」を企画し、本課題の関係者(代表・分担・協力者)が全7件の発表を行った。応用生態工学会第24回大会では、「自由集会:2014 年御嶽山噴火以降の河川環境の現状と生物の営み」を企画・主催し、同じく本課題の関係者による7件の話題提供に基づき、約40名の参加者とともに総合討論を行うなど、関係学協会における情報発信に努めた。
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