研究課題/領域番号 |
19H04320
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研究機関 | 東京情報大学 |
研究代表者 |
原 慶太郎 東京情報大学, 総合情報学部, 教授 (20208648)
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研究分担者 |
富田 瑞樹 東京情報大学, 総合情報学部, 准教授 (00397093)
藤原 道郎 兵庫県立大学, 緑環境景観マネジメント研究科, 教授 (80250158)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 植生変化 / 植生図化 / 予測モデル / AI / リモートセンシング |
研究実績の概要 |
本研究では、陸上生態系の基盤であり、自然資源の持続的な利用や生態系サービスの享受に不可欠な、日本における植生分布の現況、及び気候変動や社会経済的な影響に伴う変化とその要因や要因間の相互関係について明らかにする。さらに、要因間の関係をもとに、人工知能(AI)技術の深層学習手法を駆使することで、群落レベルの植生分布を説明するモデルを構築し、現時点の植生分布と複数のシナリオにおける将来の植生変化を予測する。このために、2019年度の研究では、(1) 対象とする植生型の案出、(2) 解析に向けた衛星データ及びグランドトゥルースデータの整備、(3) 解析環境の整備とモデル地域の解析を進めた。 植生型に関しては、これまでのリモートセンシング技術を用いた植生分類では、土地被覆(Land cover/land use; 森林、草地、市街地など)や相観植生(Physiognomy; 落葉広葉樹林、落葉針葉樹林など)などが用いられてきた。一方で、環境省植生図の植生型を勘案し、衛星リモートセンシングの制約を踏まえると、群落優占種の属とその相観を組み合わせた分類体系が適していると判断した。このことから、本研究で用いる植生型としては、植物群落を優占種の属と相観で代表させたクラスとして、群落優占属相観型(Dominant genus physiognomic type)を案出した。 整備した1985-2019年のLandsat衛星データおよび2017-2019年のSentinel-2/MSIデータを用いて、先の分類クラスによる解析手法を検討した。衛星データと地形の特徴(標高、傾斜、方位、陰など)を用いた機械学習により、地形の特徴が山岳植生タイプの分布を説明するための最も重要な特徴であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度の研究では、衛星データを収集し、深層学習による植生解析を実施した。本研究では、Landsat衛星データとSentinel-2/MSIデータを解析に供した。Landsatデータに関しては、関東地方を対象に1985年から2019年に亘るデータを収集した。Sentinel-2/MSIは優れた時間分解能を持つ衛星であり、本研究においても有効なデータであることが考えられたため、2017年から2019年に亘るデータを収集した。衛星データは、前処理(雲除去、ラジオメトリック補正・幾何補正、モザイク処理、コンポジット処理)の後に、バンド情報をもとにした植生分類に係わる指数値を算出した。衛星データの収集数が膨大なため、前処理を自動化するためのPython言語ベースのプログラムを作成し実施した。グラウンドトゥルースデータの整備では、環境省1/2.5万植生図およびGoogle Earthの複数時期の空中写真を用いて目視判読し、植生型ごとに約300個のポリゴンデータを作成した。GPUによる汎用計算(GPGPU)による深層学習や機械学習の実行環境を整備した。整備した衛星データならびに解析環境の検証は、奈良県や三重県の温帯林をモデル地域にした現地調査および植生解析をすることで実施した。 以上のとおり、2019年度の進捗状況として研究は計画通りに進んでおり、2020年度以降の研究実施に向けたデータセットの整備および解析環境を整備することができた。2020年度からは、(1) 植生変化と土地利用の関係、(2) 植生変化と気候の関係、(3) 植生変化と社会経済的要因の関係を明らかにする研究を進める。最終年度(2021年度)には相互に関連する要因間の包括的な解析を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、気候変動下・経済発展状況下における複数の将来シナリオを想定した植生変化予測モデル構築の基礎となる解析を実施する。植生分布と分布変化に寄与する可能性のある自然・社会要因(気候、地形・地質、土地利用、社会経済)との相互関係を明らかにすることを目的に、現時点(2018-2020年)における植生型の分布モデルを構築する。初年度に収集した衛星データを深層学習手法により解析し、植生分布モデルを構築することで、分布変化に関与する自然・社会環境要因や影響度合いを明らかにする。具体的な実施手順は以下の通りである。 (1)土地被覆に関するモデル構築: 過去から現在までの土地被覆の変化について1985-2020年を対象に、これまでに収集した衛星データを特徴量として用いて深層ニューラルネットワークによるモデル化を行う。このモデル化によって、土地利用や社会経済に影響を受ける各土地被覆クラスの時系列的変化やクラス間の相互関係を明らかにする。 (2)植生分布に関するモデル構築:植生分布(応答データ)として、環境省の1/2.5万植生図データおよび筆者らのグループで整備したデータを用いる。この応答データに対する特徴量には、複数年に亘る衛星データに加え、それらの衛星データから算出する植生に関する指数を用いて、深層ニューラルネットワークによるモデル化を実施する。この段階の解析で用いる植生クラスは、相観植生型とする。 (3)土地被覆および相観植生に関するモデルによって明らかになった要因間の相互関係や解析に有効な特徴量を用いて、深層ニューラルネットワークにより、2018-2020年の群落優占種相観型分布モデルを構築する。 2021年度は、モデルの検証:衛星データから作成された2020年の土地被覆図と植物群落図を用いて、 予測された土地被覆と植生の状態を検証する。
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