研究課題/領域番号 |
19H04321
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研究機関 | 国立極地研究所 |
研究代表者 |
伊村 智 国立極地研究所, 研究教育系, 教授 (90221788)
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研究分担者 |
中澤 暦 福岡工業大学, 付置研究所, 研究員 (10626576)
永淵 修 福岡工業大学, その他部局等, 客員教授 (30383483)
金藤 浩司 統計数理研究所, データ科学研究系, 教授 (40233902)
辻本 惠 慶應義塾大学, 環境情報学部(藤沢), 講師 (90634650)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 人新世 / 地球環境 / 環境モニタリング / コケ植物 / 植生コア / 重金属 |
研究実績の概要 |
本研究では、南極地域に生育するコケ植物からなる植生コアの解析によって、人新世における人間活動が地球環境に及ぼしてきた影響を知る事を目的としている。解析用のサンプルは、日本南極地域観測隊が取得してきた昭和基地周辺からのものを使用し、南極外からの環境汚染の影響と共に、昭和基地などの南極観測活動が現地環境に及ぼす影響も検出する。 当該年度は予備調査として、南極昭和基地および周辺地域から採取されたコケ植生試料のコケ植物体表層、内部、および土壌の水銀含有量の分析により、南極における重金属汚染のバックグラウンド値を明らかにすること、基地活動の影響の有無を検出すること、また深度別計測の試行により年代解析の可能性を確認することを計画した。 昭和基地周辺地域から採取されたコケ試料の分析は順調に進み、基地周辺と基地活動の影響が少ないと思われる遠隔地の比較、短い植生コアを用いた汚染の時間変動の解析試行を実施出来た。その結果、基地近くのコケ植生では水銀蓄積量が多いこと、また土壌よりも高濃度の水銀がコケ植物体から検出され、コケ植物による濃縮が起きている可能性が明らかとなった。一方、遠隔地のコケ植生からも比較的高濃度の水銀が検出されることがあり、南極地域全体のバックグラウンド汚染が高い可能性が示唆された。植生コア中の深度別解析から時間変動を見ると、表面から数㎝下に高濃度の水銀が検出され、過去に汚染大気に暴露された可能性が考えられた。今後、年代解析などとあわせた総合解析により、南極外、および昭和基地からの汚染の時間変動解析が期待される。 予算として、植生コアの深度別年代測定の委託費を計上していたが、当該年度は汚染の現状を確認するためのパイロットスタディーを重視して水銀分析を優先することとしたため、委託費は使用しなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要に記したように、当該年度は汚染の現状を確認するためのパイロットスタディーを重視して水銀分析を優先することとしたため、当初予定していた当該年度中の植生コア試料の深度別年代測定は実施しなかった。表層から下部までの年代測定を実施する前に、この地域全体の南極外、および昭和基地からの汚染の実情を知るべきであるとの判断である。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度の結果より、南極昭和基地周辺地域のコケ植物植生には、土壌より高い重金属が検出されていることから、植物体組織への蓄積が行われていると考えられ、汚染指標としての有効性が期待される。基地の影響を受けない地点からも高濃度の重金属が検出されたことから、南極外からの遠距離汚染がこの地にも及んでいること、また昭和基地周辺での濃度は高く、基地も汚染源となっていることなどが明らかにできた。 これらの情報を元に、2年目となる2020年度は、第60次日本南極地域観測隊によって採取され持ち帰られたコケ植生コアを対象とした分析を本格的に開始する。昨年度実施できなかった、委託費を用いた年代測定による時間軸の設定を最優先課題とし、植生コアに厳密な時間時を設定する。これに応じて、深度別の重金属汚染の状況からその時間変動を、コケや土壌微小動物の種構成の変化から当時の環境解析を行い、本研究計画の中核を成す分析を推進する。また、年代測定が1年遅れて2020年度にずれ込んだことから、本来2020年度に計画していた計画のうち、紫外線吸収色素の分析を次年度に先送りし、年間の研究計画が過剰にならないよう調整を行う。 2019年度末からのCOVID-19の影響で、研究集会などの実施は難しいことが予想されるが、Web会議システムなどを使っての効率的な情報交換や議論を試みる。また、学会の開催も危ぶまれるところではあるが、2019年度に分析したパイロットスタディーの結果を取り纏め、日本生態学会などでの発表を予定する。
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