研究課題/領域番号 |
19H04331
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
藤原 正浩 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 上級主任研究員 (90357921)
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研究分担者 |
石井 智 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主幹研究員 (80704725)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 海水淡水化 / 太陽光 / 膜分離 / 光熱変換材料 / 色素 / 窒化チタン |
研究実績の概要 |
本研究では、世界規模での水不足問題解決のため、太陽光エネルギーを用いて海水を淡水化する技術を創出する。太陽光から熱を効率的に発生することができる色素や光熱変換材料を海水と接触させ、太陽光を照射、水を蒸発させ凝縮させることにより淡水を得る。この海水淡水化の性能を向上させるには、色素等の光熱変換材料の開発、水蒸気凝縮過程の効率化と凝縮熱の回収等の装置全体のシステム化が必要である。光熱変換を行う微細構造ではナノ空間において光吸収によって熱が発生し水に伝わる。微細構造の実効的な熱伝導はフォノニック結晶等で研究が盛んにされているものの、熱が3次元的に輸送される微細構造の系ではほとんど研究例がない。そこで本研究では、顕微光学測定による温度測定と数値計算を組合せ、高アスペクト比を持つ窒化チタンの微細構造の熱伝導を解析し、高アスペクト比微細構造が異方的に熱伝導することで実効的な熱伝導率がバルク窒化チタンより一桁以上小さくなることを見いだした。 一方、海水淡水化装置システムの改良は、色素を修飾した親水性膜を疎水性のPTFE膜の上に重ねた二枚膜法が有効であることを見いだした。この方法をさらに発展させ、疎水性膜、海水を毛細管現象で吸い上げる親水性膜、光熱変換黒色シートという三枚膜法を考案した。このシステムを用いることで毛細管力による海水の自動供給が可能となった。一方、親水性膜による方法では長時間の海水淡水化では徐々に性能が低下するため、今後は植物の蒸散流現象を模した方法等を検討する必要があることもわかった。 また、疎水性膜細孔中における水溶液の挙動の解析は、NMR法による分析ではピークのブロード化により解析が困難であるため分光分析で研究を行うこととし、膜蒸留の手法を用いPTFE膜に水蒸気を透過させることで赤外線スペクトルに変化が得られることを見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、世界規模での水不足問題解決のため、太陽光エネルギー利用による海水淡水化技術を創出することを目指している。2019年度の成果より、太陽光を紫外線から近赤外線まで有効に吸収し、そのエネルギーを効率的に熱へと変換できる色素や光熱変換材料を概ね選定することができた。産業技術総合研究所では2020年度、黒色色素を親水性膜に修飾し疎水性膜との二枚膜法で、膜上に水を貯める方法(貯水型)では極めて良好な結果を得た。この方法では水は膜上に薄く広がるため長時間の光照射を行っても淡水を良好に得ることができ、また析出した塩分も海水による洗浄処理で溶解させることができることも確認した。物質・材料研究機構では2020年度、窒化チタンの高アスペクト比微細構造中の熱伝導を、実験と伝熱計算の電磁場分析を組合せた手法により解析することで実効的な熱伝導率を求める手法を確立した。本手法は空隙率だけを使った従来方法とは異なり、構造の周期性を考慮し、単純でありながら実験結果をよく説明できた。 親水性膜を用いて毛細管現象で水を吸い上げる手法を検討したが、光熱変換に活性な色素の疎水性により水のくみ上げが起きなかった。そこで、色素非修飾の親水性膜の上に黒色シートを置いた三枚膜法を考案した。この方法では毛細管力による水の吸い上げは十分に起こり、長時間照射においても海水淡水化が実施できた。 また、PTFE膜と水との相互作用をPTFE膜の赤外線スペクトルをAttenuated Total Reflection(全反射測定法;ATR)で測定することで解析した。PTFE膜を単に水(蒸留水等)に浸漬するだけでは赤外線スペクトル上では変化は観測されなかったが、PTFE膜上に60℃の温水を展開し膜蒸留の原理で水蒸気を膜透過させた後のスペクトルには変化が起きることを確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
「太陽光エネルギーの変換効率の向上」では、高性能な色素を含めた光熱変換材料の開発と、光熱変換材料により気化された水蒸気の効率的な凝縮・回収による実質的な淡水製造量の向上を目指し、この海水淡水化システムの完成度を高める。一方、水蒸気の効率的凝縮より誘導されるエネルギー回収を応用することで、システム全体のエネルギー効率のさらなる向上を目指す(産総研担当)。微細構造の伝熱解析ではこれまでの成果を元に、異なる周期性を持つ構造を系統的に解析し、微細構造内のミクロ及びマクロな熱伝導を明らかにする。窒化チタンの微細構造だけでなく、ポーラスアルミナやシリコンの微細構造でも同様の解析を行い、微細構造の実効的熱伝導の一般性を確認する。これらの研究から太陽熱蒸留に有用な微細構造を提唱し、その構造を使った海水淡水化に取り組む(物材機構担当)。 これまでの研究で得た毛細管現象による海水の自動供給では、親水性膜材料中に塩が沈積する。そこで「蒸散流機構を用いた海水の自動供給化」では2021年度、植物の蒸散流現象を模倣した水の自動供給を試みる。密閉性の高いセル状微少空間を持つ装置システムを考案し、蒸散流現象を模した微細管を利用した海水の自動供給法を創出する。この方法ではろ紙材料等を使用しないため、塩析出による抑制効果が低減されると考えられる。一方、海水から蒸発した水蒸気の凝縮により放出される熱の再利用法も組み合わせたシステムの構築も検討する。 「疎水性膜細孔中における水溶液の挙動解析」では、2020年度の研究から、膜蒸留と同じ処理でPTFE膜中に水蒸気を通過させることによるPTFEのポリマー表面と水蒸気との相互作用を赤外線スペクトル(ATR法)により解析し、光熱変換材料の特性と水蒸気の膜透過過程を解明し、海水淡水化システムや膜材料の改良につなげる。
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