研究課題/領域番号 |
19H04342
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
松岡 俊二 早稲田大学, 国際学術院(アジア太平洋研究科), 教授 (00211566)
|
研究分担者 |
師岡 愼一 早稲田大学, 理工学術院, 名誉教授 (10528946)
勝田 正文 早稲田大学, 理工学術院, 名誉教授 (20120107) [辞退]
井上 弦 長崎総合科学大学, 総合情報学部, 准教授 (30401566)
松本 礼史 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (50294608)
黒川 哲志 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (90268582)
竹内 真司 日本大学, 文理学部, 教授 (90421677)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 高レベル放射性廃棄物 / 地層処分 / 社会的受容性 / 技術的安全性 / 社会的安全性 / 世代間公平性 / 可逆性 |
研究実績の概要 |
日本は2000年に最終処分法を制定し、高レベル放射性廃棄物の地層処分を決めたが、立地選定プロセスは長らく進んでいなかった。しかし2020年11月、北海道の寿都町と神恵内村において文献調査が開始され、日本の地層処分政策は新たなステージに移行したといえる。 本研究は地層処分政策の実施には社会的受容性分析が必要と考え、市民の政策選好を社会的受容性の4要因(技術・制度・市場・地域)から考察した。専門家と市民による3回の市民会議と質問票調査を実施し、地層処分政策の選好変化を分析した結果、政策選好と技術的要因および制度的要因とが強い相関を示した。 地層処分政策を肯定的に選好する市民は技術的要因を肯定的に評価し、地層処分政策を中立・否定的に選好する市民は制度的要因を否定的に評価するという特徴を明らかにした。さらに市民の回答を積算プロット図で分析し、政策選好と技術的要因および制度的要因に強い相関がみられる市民は政策選好が一貫していることが分かった。政策選好と社会的受容性要因に相関がない市民は,回答変化が会議内では否定方向に変化し,日常生活を挟んだ次の会議との間では肯定方向に変化する規則性が観察され、地層処分政策の選好に対する技術的要因と制度的要因の影響が確認された。 また、フィンランド、イギリス、フランスなどの欧州の地層処分政策と社会的受容性に関する文献調査を行った。フィンランドで実施されたエネルギー調査を使って順序型ロジット分析を行い、地層処分場の候補地として選定された4つの地方自治体の社会的受容性に関する信頼の役割を分析した。信頼をcompetenceとしての信頼とconcern(care)としての信頼に区別し、地層処分政策の社会的受容性に対する信頼の効果を分析した結果、原子力産業に対する信頼がない場合は、技術的安全性への信頼のみでは社会的受容性の醸成が難しいことが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度に実施した専門家と市民による高レベル放射性廃棄物の地層処分政策と社会的受容性に関する市民会議から得られたデータを用いて、2020年度および2021年度は、市民集団としての分析と個々の市民としての分析という2つのアプローチからの分析を計画し、実施した。 市民集団としての分析結果は、政策選好と技術的要因および制度的要因との強い相関を示した。地層処分政策を肯定的に選好する市民は技術的要因を肯定的に評価し、地層処分政策を中立・否定的に選好する市民は制度的要因を否定的に評価するという特徴が際立っていることが明らかになった。 また、個々の市民の分析では、市民会議の前後の回答データを積算プロット図により分析し、政策選好と技術的要因と制度的要因の間に高い相関がみられる市民は,政策選好(賛成であれ、反対であれ)が一貫していることが分かった。地層処分政策の選好と社会的受容性要因との相関がみられない市民は,回答の変化が市民会議内では否定方向に変化し,日常生活を挟んだ次の市民会議との間では肯定方向に変化するという規則性が観察され、地層処分政策の選好への技術的要因と制度的要因の影響が確認された。 さらに、フィンランド、イギリス、フランスなどの欧州の地層処分政策と社会的受容性に関する調査研究は現地調査が新型コロナの影響で実施できなかったため、文献調査として実施した。フィンランドで実施されたエネルギー調査データを使って順序型ロジットを実行し、地層処分場の候補地として選定された4つの地方自治体の社会的受容性に関する信頼の効果を分析した。信頼をcompetenceとしての信頼とconcern(care)としての信頼に区別し、地層処分政策の社会的受容性に対する信頼の効果を分析した結果、原子力産業に対する信頼がない場合、技術的安全性への信頼のみでは社会的受容性の醸成が難しいことが分かった。
|
今後の研究の推進方策 |
新型コロナの影響により日本および欧州の現地調査が実施できない状況を踏まえ、オンラインによる調査研究や文献調査の充実を考える。地層処分政策に対する社会的受容性や社会的納得性のあり方を考察するため、多様なステークホルダーや市民参加による協業の「場」の形成を試みる。「場」の参加者としては、科学者・技術者、人文・社会科学者、市民、アーティスト、関連企業・業界、実施機関(NUMO)などを想定し、どのようなプレイヤーが、どのように集まり、どのようなアジェンダ・ルールで「場」を運営・進行することが、実践的協業モデルとして機能するのかを考える。 また、2019年度に実施したの市民会議から得られたデータを、新たな観点から分析することも試みたいと考えている。特に、地層処分政策へ賛成・中立・反対という政策選好の違いにかかわらず、政策決定プロセスや合意形成プロセスのあり方において、多くの市民が合意しうる(一致しうる)デザイン要素があるとの仮説に立脚し、市民会議データを再度分析したいと考えている。 海外事例研究については、引き続きフィンランド、フランス、イギリスなどの欧州諸国の可逆性や世代間公平性の議論の動向や地層処分政策の動向に関する調査研究を予定する。しかし、新型コロナの感染問題を踏まえ、海外出張による現地調査が可能かどうか、妥当かどうかなどについては、感染状況を慎重に検討しながら判断をしたいと考えている。文献調査やオンラインによるインタビュー調査の実施なども含めて検討したいと考えている。
|