研究課題/領域番号 |
19H04372
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研究機関 | 聖泉大学 |
研究代表者 |
磯邉 厚子 聖泉大学, 看護学部, 教授 (40442256)
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研究分担者 |
植村 小夜子 佛教大学, 保健医療技術学部, 教授 (10342148)
坂本 千科絵 京都文教短期大学, 食物栄養学科, 准教授 (20299241)
松永 早苗 宮城大学, 看護学群(部), 講師 (30614581)
岩佐 美幸 聖泉大学, 看護学部, 助教 (30782651)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 潜在能力アプローチ / スリランカヌワラエリヤ / 母子保健 / 自由 / 農園 |
研究実績の概要 |
2019年8月、スリランカ・ヌワラエリヤ県の農園託児所の5歳以下の子ども416名の身長と体重、歯の状態など身体発達状態を調査した。WHO-CGS評価での低体重は女児20.9%、男児22.6%、低身長は女児22.4%、男児25.8%であった。同地域での2014年の調査と比べると改善していたが、未だに高率である。一方、保護者が持参した子どもの成長発達記録によると低出生体重児率(出生時体重2500g未満)は女児29%、男児30%あり、世界の指標7%や当国の平均指標17%よりも高かった。元々母親の栄養不良や低出生体重児率が高いため、小さい子どものまま育っていると考えられた。また、25%の女性が未就学及び小学校までの就学率であり、子どもの成長発達の理解や対処能力の不足が考えられた。また、歯の観察を383名に行った結果、222名(58%)が齲歯をもち、5本以上の子どもは92名(41%)、うち84名(91%)はCGSの中等度以上の低体重・低身長も伴っていた。感覚発達面の調査では3-4歳児の17%に色の見分けができていなかった。 2020年3月、農園で働く母親341名の育児(授乳)に関する調査では、母乳のみは111名(33%)、母乳と粉乳の併用が230名(67%)であった。併用の理由は、フィールドと託児所(もしくは自宅)が遠く離れ、母乳授乳が困難であった。そのため、高価な粉乳に頼らざるを得ず、同時に託児所に母乳を保管する冷蔵庫が設置されていなかった。牛を飼い、牛乳との併用も25名あった。離乳食開始時期は、6ヵ月が226名(66%)で、他は5ヵ月~12ヵ月と幅があった。一方、母親の62%は、給与受取や家計を夫や義母などに委ね、自身での受取は38%で経済的管理能力が低かった。但し、それへの不満はみられなかった。数人の女性は離婚や義母との問題など、家庭生活においても母親の潜在能力は乏しかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度の2度の渡航により、農園託児所の子どもの身体の発達状態、農園で働く母親の育児に関する調査を母子計757名に行い、予定通り進行している。当地域の子どもの身体発達状況は改善傾向にあるものの未だ足踏み状態である。母親は山中の業務により、日中の母乳授乳の機会が少ない。働く母と子どもにとって授乳機会の保障が必要だが、子どもを預ける託児所の設備や有資格の保育士不足も依然問題がある。今後、母親が子の発達を理解する能力や対処能力の分析、安心して子どもを預けることのできる育児環境整備の追及、母子の福祉に関する国の制度政策、NGO、家庭やコミュニティ、農園の福祉プログラムなどの社会資源の有無と利用能力、飢餓や飢えはないものの、母子の栄養摂取の偏重をきたす要因を追及する。結果を社会へ発信する準備を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
・母子に不可欠な基本的機能の追及:母子の発達における課題分析(人間らしい住居や生活インフラ、育児や健康の知識と行動、教育の機会や社会資源の利用と選択能力の有無、情報を得る機会とプロセス)。 ・資源分配の仕組みと機能の追及:公共サービスの利用とアクセス、医療や福祉制度、サービスが公衆衛生や母子の健康管理を守る範囲にあるか、母子の健康ニーズに対して、地理や財政、言語、地域の医療や福祉、経済資源の分配の状況と不平等の有無と要因。 ・母子を取り囲む人的・社会的環境に関する機能の追及:人的環境、職業状況まで対応できる能力(母の仕事内容と重さ、労働条件、財政状態、家族や夫婦関係、コミュニティ)の実態と改善の可能性、相談または対応可能な社会グループやネットワークの有無と参加状況。他地域に比べ、アクセスへの不平等や権力について反対できるプラス志向の力量の有無と阻害要因の追及。 ・母子の成長過程や健康問題に影響する地域特性に関する機能の追及:地域の歴史や産業構造(変化困難性と可能性)、コミュニティの特性、宗教、伝統文化、嗜好、ジェンダー特質の分析と追及。 今後、コロナの影響で海外渡航の困難が続いた場合、学会発表や論文発表に渡航費を充て、費用を有効活用する。また、次年度に繰り越すなどを行う。
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