エチオピア北部のアファール州において、従来、市場とのかかわりの薄かったエチオピアの牧畜社会に市場の取引の機会が導入されたときに、牧畜民の互助に関する規範がどう変わるかということを明らかにするため、経済学と文化人類学による学際的な調査を行った。この地域では、急速に舗装道路網が整備されつつあり、市場経済が進展しており、この影響を受けて、現地牧畜民の互助規範が変化しつつあることが分かった。経済班は、エチオピア国アファール州の牧畜民に対して行ったアンケート調査の結果を取りまとめるとともに、調査対象地域を広げるために追加的な調査を行った。調査データを用いて規範意識に対する市場経済の影響の分析を行った。当初、現地では新型コロナウイルス感染症やティグライ戦争の影響が残り、現地調査が難しかったが、共同研究協定を結んでいる現地カウンターパートの協力があり、必要なデータの収集を行うことができた。新型コロナ感染症の蔓延以前に事前調査を行い、調査票の作成や調査地の選択等を行っていたこともあり、直接的な影響は少なかった。また人類学班は、気象データなどを補足し、気候変動下での市場経済の進展が牧畜民の互助に及ぼす影響を明らかにした。最終的に、経済学調査と人類学調査の結果を統合し、市場経済と牧畜民の互助規範との関連についてとりまとめた。市場経済の進展により伝統的なアファール牧畜民の互助規範は変容しているが、それだけでなく、気候変動の影響と考えられる恒常的な降水量の減少により、伝統的な牧畜民の互助が難しくなっている。
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