研究課題/領域番号 |
19H04391
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
江島 丈雄 東北大学, 国際放射光イノベーション・スマート研究センター, 准教授 (80261478)
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研究分担者 |
大山 隆 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (60268513)
刀袮 重信 東京電機大学, 理工学研究科, 特別専任教授 (70211399)
東口 武史 宇都宮大学, 工学部, 教授 (80336289)
若山 俊隆 埼玉医科大学, 保健医療学部, 教授 (90438862)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 軟X線 / 誘導放出抑制 / シンチレーター / STED / 超解像 / 高空間分解能 / ナノ |
研究実績の概要 |
20年度はコロナ禍による移動制限、接触制限などにより、放射光施設を利用した実験がキャンセルになるなどの影響を受けた。そのため一部の放射光施設を利用した実験計画に遅れが生じ、当初予定になかった実験や解析などを行う必要が生じた。 アポトーシス細胞の各崩壊過程の評価においては、Ⅹ線吸収実験の代わりに赤外吸収実験とその結果のスペクトル解析を行った。その結果崩壊過程の各段階毎にリン酸基の振動構造が変化していることを見出した。また19年度に引き続きリン酸基の吸収構造の分子軌道計算を行った結果、DNA中のリン酸構造のコンフォメーション変化に基づくP3d軌道の変化により説明できることを見出した。現在これらの結果を論文にまとめている。 また研究目的に沿って開発する走査型2次元検出器は、試料を通過したⅩ線をシンチレーターに当て可視光に変換し、その蛍光領域を誘導放出抑制(STED)により微小点に制限し、その点を走査することで実現する。20年度はまず走査光学系の開発を行った。開発した光学系はベクトル偏光ビームを用いて得られた微小光点を走査するためにガルバノミラーとそれを走査するための制御プログラムから成る。次に軟X線励起による蛍光のSTED現象を示す物質として新たにEu:GGG、Tb:LSOのSTED現象の確認を行った。これらの物質は19年度の蛍光強度測定結果から300eVから1.3keVの軟X線領域において高い蛍光強度を示すことが分かっている。原理検証実験は、開発した走査光学系の結像レンズに分光器を加えて行った。その結果、Tb:LSO、Eu:GGGの軟X線励起蛍光におけるSTED現象には発光波長依存性があることが新たに確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
20年度はコロナ禍によるビームタイムのキャンセル等により予定した実験計画が遅れた。予定していたⅩ線吸収実験の代わりに、アポトーシス細胞中のリン酸基の変化を赤外吸収実験とそのスペクトル形状解析によりDNA中のリン酸基の振動構造を評価した。加えて、これまでのCe:LSOに加えてより軟X線領域での発光効率の高いTb:LSOおよびEu:GGGのSTED現象の確認を行った。以下それぞれについて進捗状況をまとめる。 ① 19年度に引き続きプラスミドDNAのリン酸基のP-L吸収端スペクトル形状を分子軌道計算を行って評価した結果、DNA中のリン酸構造のコンフォメーション変化に基づくP3d軌道の変化により説明できることを見出した。アポトーシス進行中の各段階における細胞核中のDNAコンフォメーション変化を評価する目的で、赤外スペクトル測定とそのスペクトル構造解析を行い、スペクトル形状変化が主にリン酸基の振動状態の変化に起因することを見出した。現在、論文投稿準備中である。 ② 開発する走査型2次元検出器は、試料を通過したⅩ線をシンチレーターに当てて可視光に変換し、その蛍光領域を、誘導放出抑制(STED)により微小点に制限し、その点を走査することで実現する。19年度に引き続き軟X線励起蛍光におけるSTED法の原理検証実験を行った。実験は19年度に開発した顕微蛍光装置に結像光学系と分光器を追加し、軟X線励起蛍光におけるレーザー誘導放出時の蛍光スペクトル測定により行った。その結果、レーザー強度に応じて発光強度が変化する事、その強度変化率が発光線毎に異なることを見出した。これらの結果については現在詳細解析中である。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画と同様に、①自己集合DNAとアポトーシス細胞の軟X線撮像と②走査型2次元検出器に分けて述べる。 ① アポトーシスの第1段階から第2段階への進行は、DNA中のホスホジエステル結合(リン酸基を含む結合)を切断することによって起こる。これまでの結果からホスホジエステル結合の変化に伴いP-L吸収端構造の強度変化が分かっているため、この強度が増加すれば断片化が進行したことを示す。更に新たな構造が観測されれば結合分子の状態が変化したことを示す。20年度の計画では、開発した2次元検出器を用いて吸収端構造に基づき軟X線像を測定しホスホジエステル結合切断前後の空間分布を得る予定であったが、装置開発が遅れているため、この部分は電子顕微鏡によるP-L吸収端近傍のEELS測定とUVSOR BL4Uを用いたSTXMによる測定に切り替える。EELS測定は多元研所内の寺内研究室の協力を得て行う。以上により、アポトーシスの形状変化とリン酸基の周辺分子の変化の関係が明らかになる。 ② ビームタイムの中止などに伴い当初の研究計画を変更してTb:LSOとEu:GGGの蛍光領域制限の原理検証を行った結果、予想に反してSTED現象に発光線依存性があることが新たに判明した。今年度は20年度中に行えなかった蛍光領域制限した微小スポットを走査し最終的に軟X線像を取得するための装置改良を行う。具体的には開発した装置にガルバノミラーを導入し微小スポットを走査する。操作が可能になった時点で装置を放射光施設に持ち込み、軟X線励起シンチレーター蛍光による軟X線像の取得を試みる。
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