研究課題/領域番号 |
19H04395
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
片山 領 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 特任助教 (60806959)
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研究分担者 |
岩下 芳久 京都大学, 化学研究所, 研究員 (00144387)
久保 毅幸 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 助教 (30712666)
佐伯 学行 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 准教授 (70282506)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 薄膜 / 超伝導空洞 |
研究実績の概要 |
本研究は超伝導空洞に対する薄膜構造の導入の効果と空洞性能の周波数依存性を実験と理論の両面で検証することにより、超伝導空洞を高性能化する基礎を与えることを目標としている。 これに関連して、多連コイルからの kHz 帯の磁場を用いて磁束侵入開始磁場の測定を行うための第3高調波測定システムの開発が行われ、信号が得られることが確認できるようになった。また、微小コイルを用いてサンプルのロンドン長を測定するための実験セットアップの開発も行われ、信号が得られるようになっている。これらの装置を用いて最適な成膜条件を効果的に探索できるものと期待される。また、現在我々のサンプルの超伝導特性をStanford Linear Accelerator Center(SLAC) の 11.4 GHz の半球形 cavity を用いて評価するため準備を進めている。SLACの装置は空洞と同じ GHz 帯の磁場を用いた超伝導特性の評価を可能とし、従来の kHz 帯の磁場のサンプル実験と将来の空洞実験との中間に位置づけられるため、大変重要である。初年度から先方の装置に設置するための円盤ニオブサンプルの電解研磨処理の技術開発を進めてきたが、ついに年度の後半に従来技術と遜色ないサンプルが得られるようになった。また、3 GHz 空洞用の X-Tmapping の開発は完了している。 理論研究においては新たに BCS 理論を用いた計算によって積層薄膜構造を持つ超伝導薄膜試料に対する磁束侵入開始磁場を求めることができるようになり、dirty な超伝導体に対しても超伝導特性の理論的な評価が行えるようになった。また、新たにdynes pair-breaking scattering parameter Γ が超伝導特性に与える影響が評価され、トンネル分光実験を組み合わせることで成膜条件をより効果的に探索できる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年から SLAC の半球形 cavity で超伝導薄膜試料の磁束侵入開始磁場と表面抵抗を測定するための円盤形状のニオブサンプルに対する電解研磨処理の開発を進めてきたが、2020年度後半にはついに従来技術と遜色ないレベルのサンプルが得られるようになった。また、2019年から多連コイルによる kHz 帯の磁場を用いて複数のサンプルの磁束侵入開始磁場の評価を行うことのできる実験システムの開発を進めてきたが、2020年後半についに信号が得られることを確認できるようになった。同様に、微小コイルからの MHz 帯の微弱磁場を用いてサンプルのロンドン長を評価できる実験システムの開発も進展があり、2020年度終わり頃に信号が確認できるようになっている。また、2019年度から開発を進めてきた 3 GHz 空洞用の X-Tmapping 装置開発は完了している。また、6 GHz 空洞の製作に関しては、現在部材一式を調達して、製作を行なう技術者のあてがついた段階まで来ている。また、今まで我々が行ってきた実験的研究と海外研究機関と行ってきたコラボレーションの成果を国際学会で発表している。 理論研究においては、新たに BCS 理論を用いた計算で積層薄膜構造を保有する超伝導試料の磁束侵入開始磁場に対する評価が行えるようになり、dirty な超伝導体に対しても超伝導特性の評価が行えるよう拡張がなされた。また、理論計算によって dynes pair-breaking scattering parameter Γ が超伝導層とバルク層からなる超伝導体に与える影響が評価されており、トンネル分光実験と組み合わせることで最適な成膜条件をより効果的に探索できる可能性が示された。これらの理論研究の成果は論文にまとめられ、学会でも発表されている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は以下のようにして実験的研究を進めていく。 (1)アルバックと共同開発した装置を用いてクーポン空洞に対する Nb、NbN、Nb3Sn の成膜試験を実施する。そして、クーポン空洞から成膜された複数のサンプルを取り外し、多連コイルと微小コイルを用いた実験によりその磁束侵入開始磁場とロンドン長を評価する。最終的に、この過程で判明した最適な成膜条件で実際の空洞内部に対して積層薄膜構造を実装することを目指す。 (2)昨年度開発した電解研磨処理技術を用いて円盤形状のニオブサンプルを製作し、SLAC の 11.4 GHz 半球形 cavity によってその磁束侵入開始磁場と表面抵抗を評価する。問題がなければ円盤サンプルを量産する段階に移る。量産されたサンプルは KEK で Nb や NbN や Nb3Sn 成膜するなり、JLab と CEA/Saclay に送付して ECR 法による NbTiN や ALD 法による Nb3Sn を成膜するなりして、積層薄膜試料を製作する。そして、半球形 cavity により GHz 帯の RF 磁場を用いてそれらの試料の磁束侵入開始磁場とRF表面抵抗を評価することを目指す。 なお、(1)の空洞内面への成膜は難しいと予想されるが、(2)の研究は平板の試料で測定が行える。このことから、(2)の研究は積層薄膜構造の形成の技術開発を進めていく上で有用であると考えられ、(1)と(2)は互いに相補的な関係にある。 また、昨年度に国際学会で発表した後、複数の海外研究機関からコンタクトがきている。これらの海外研究機関から送付されたサンプルの測定を行うなどして、今まで以上にコラボレーションの輪を広げていきたい考えである。
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