研究課題/領域番号 |
19H04397
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
田中 義人 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 教授 (80260222)
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研究分担者 |
鈴木 基寛 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 分光・イメージング推進室, 主席研究員 (60443553)
安田 伸広 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 回折・散乱推進室, 研究員 (10393315)
福山 祥光 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 回折・散乱推進室, 研究員 (20332249)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | X線励起分光 / 半導体単結晶 / X線自由電子レーザー / 時間分解計測 |
研究実績の概要 |
本研究では、X線パルス励起によって生じる半導体単結晶のバンドダイナミクスを、分光学的手法を用いて明らかにすることを目的とする。X線パルス励起に対する半導体のバンドギャップ近傍の高速光学応答特性を調べることは、高輝度高速X線センサーとしての基礎特性や放射線損傷メカニズムの解明に加え、内殻励起に特長づけられる半導体の「X線光物性」について知見を得ることにつながる。 本課題でX線自由電子レーザー施設SACLAにて、GaAs単結晶に対してX線ポンプ・広帯域近赤外光プローブ法を適用して、過渡透過スペクトルおよび過渡反射スペクトルを同時に計測した。透過スペクトルと反射スペクトルから精度の高い吸収スペクトル形状を得ることができた。その時間変化をサブピコ秒の時間分解能で取得したデータを解析した結果、バンドギャップ付近の吸収率がピコ秒スケールで高くなり、その後数ピコ秒で低くなる挙動が明らかになった。 当該年度では、これらがバンドギャップ収縮や、励起キャリアの分布変化などが影響しているものと考えて考察を進めた。また、GaおよびAsのK吸収端前後の励起X線の光子エネルギー依存性についても解析したが、その変化の大きさについては、X線吸収量の光子エネルギー依存性でほぼ説明できた。 上記で得られたデータがX線励起時の特徴的な挙動であることを明らかにするために、同じGaAsに対して近赤外光励起を施したときの過渡透過スペクトルを取得した。X線励起実験のときと同程度の励起電子密度が得られるレーザーパワー密度にて実験を行った結果、X線励起時とは大きく異なり、バンドギャップ付近の吸収率がピコ秒スケールで急激に低くなる挙動がみられた。この差は、X線励起の際は励起キャリアのエネルギーが高いために、バンドギャップ付近に緩和するまでに数ピコ秒の時間がかかることに起因していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度で、試料をGaAsとしてX線自由電子レーザー施設SACLAでの実験を行い、放射光施設SPring-8で得たX線励起時の過渡近赤外スペクトル変化と異なるデータを得ることができ、さらには、透過率計測に加えて、反射率の同時計測を行うことができ、より正確な時間分解吸収スペクトルを得ることに成功した。そのデータは、バンドギャップ付近の光の吸収率が、ピコ秒スケールで大きくなったのち、数ピコ秒で小さくなる傾向が再現性よく見られるものであった。 今年度は、このような形状変化は、バンドギャップの収縮や、キャリア励起による分布変化から得られるものと推察し、今年度は他の文献やデータを参考にしながら考察を進めた。元素選択的な励起効果も調べるために、GaおよびAsのK吸収端前後で励起X線の光子エネルギーを調整して得たデータの解析も進めた。その結果、X線の吸収量に比例した効果がほぼ見られていることが分かった。 一方で、これらのデータと近赤外光励起を比較するために、昨年度中に大学の実験室のモードロックチタンサファイアレーザーシステムの調整を行い、準備を進めていた。今年度、このレーザーシステムを用いて、同じGaAs試料に対して近赤外励起・近赤外広帯域プローブ計測を行った。その結果、X線励起時とは大きく異なる挙動がみられ、これまで、他の文献や過去のデータを参考に考察を進めていたが、励起エネルギーのみを変えて他は同じ条件でのデータを得たことにより、X線励起近赤外スペクトルで得られたデータの特徴を明確に説明できるようになり、確信をもって議論できるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
蓄積リング放射光の時間幅数十ピコ秒のパルスX線を用いて行ってきたGaAsに対するX線励起赤外過渡透過分光の結果と、数フェムト秒パルスであるX線自由電子レーザー励起実験の過渡吸収分光の結果、および近赤外光パルス励起に対する過渡透過分光の結果、の3つを比較して総合的に分析する。最初の2つで励起X線パルスのピーク強度の違いが示されており、後半の2つのデータで励起光子エネルギーの違いが示されたことになる。これらを総合して、X線励起時における特有の近赤外スペクトル変化の原因について考察する。来年度が最終年度になるため、GaAsにおけるX線励起時のバンドダイナミクスについて得られた知見を論文にまとめて報告する。 実験的研究も引き続き進めていく。直接遷移型半導体であるGaAsに加えて、間接遷移型の代表といえるSi半導体について、近赤外光励起を行ったときのバンドギャップ付近の透過スペクトルの取得を行う。その変化からX線励起の実験計画への見積もりを行い、系統的な計測への道筋をつける。また、GaAsについても、近赤外光励起に加えて、紫外光励起の実験も行い、X線による内殻励起を含めた包括的な高光子エネルギー励起時のバンドギャップ付近の電子状態ダイナミクス解明を行う。
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備考 |
(1)のページの Topics 中
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