研究課題
本研究の目的は、X線パルス励起によって生じる半導体単結晶の高速バンドダイナミクスを、分光学的手法を用いて明らかにすることである。ヒ化ガリウム半導体単結晶を対象とし、これにX線ポンプ・広帯域近赤外光プローブ法を適用して時間分解透過スペクトルを測定し、バンドギャップの高速の挙動を観測してきた。X線自由電子レーザー施設SACLAにて行ったフェムト秒パルスX線励起時の赤外過渡吸収分光実験の結果と、大型放射光施設SPring-8で行った同実験についての結果を比較することによって、励起X線のパルス幅およびパルスエネルギーの違いによる挙動について調べた。前者は10フェムト秒、後者は数十ピコ秒の時間幅のパルスでの励起に対する応答である。これらの結果の比較から、X線励起によりサブピコ秒の時間スケールでバンドギャップ収縮がみとめられること、および大ピークパワーのX線励起時には、数ピコ秒の時間スケールでバンドギャップの底に多くのキャリアが緩和してスペクトル形状が変化する様子が現れた。また、同じ計測条件にて、近赤外域のフェムト秒パルスレーザー励起時の赤外過渡吸収スペクトル変化についての実験データも得た。近赤外域のレーザーはヒ化ガリウムのバンドギャップをわずかに上回る光子エネルギーを有しており、伝導帯の電子分布を直接変化させる効果を観測できる。このとき観測された分布関数形状の応答は、ピコ秒以下であった。そのため、X線励起時のバンドギャップ近傍のキャリアの分布変化の応答は、直接励起のときに比べて桁で遅くなっていることがわかった。以上の一連の実験結果の解析により、半導体バンドギャップ近傍のキャリアの振る舞いには高エネルギー励起時に特徴的な遅い緩和過程が出現することが明らかになった。
令和3年度が最終年度であるため、記入しない。
すべて 2022
すべて 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)